陸・海・空各自衛隊の特徴を端的に表す四字熟語がある。自衛隊関係者や現役自衛官にも知れ渡っているこの言葉を古くから自衛隊を知る元記者に解説してもらった。
記者の雑談から誕生? 各自衛隊を表す四字熟語
元産経新聞記者で、1969年から防衛記者クラブに所属していた岡芳輝氏によると、「私が記者クラブに顔を出すようになる以前からこの四字熟語はありましたね。先輩から聞きました。おそらくは自衛隊創立間もないころ、記者たちの雑談の中から生まれたのだと思います」とのこと。各自衛隊の特徴をまるで見出しのように表した2つの四字熟語。これらは組織文化を表すと岡氏は言う。
「組織文化とは、組織の中に染みついている“風土”、つまり根本的な性格。平成を経て令和になった今も基本的に変わっていないでしょう」
四字熟語は全て「いい点を挙げてから、落とす」というパターンでできている。岡氏は、その出来の良さに注目する。「簡潔で的確で、ユーモアもある、レベルの高い評論です。これ以上の四字熟語をつくれる人がいたら、天才ですね」。
陸上自衛隊「用意周到、動脈硬化」
各軍種のものの考え方は、移動速度を反映している。陸自の場合、歩きが根本にあるので、素早く移動できない。考え方も歩くスピードと同じで着実なのだ。時間に余裕があるから「用意周到」となる。反面、1度決めたことを簡単に変えることができず、融通が利かず、柔軟性がない。これが「動脈硬化」(頑迷固陋とも)といわれるゆえんだ。
例えば日米共同訓練で、実戦経験のない陸自の指揮官は3日間寝ずに頑張るが、実戦経験の豊富なアメリカ軍の指揮官はちゃんと寝る。戦争はいつ終わるか分からないという現実を知っているからだ。かつての陸自では、そのような演習を行っていた時期もあったのだ(現在は改まっている)。これこそ「動脈硬化」の事例だろう。
海上自衛隊「伝統墨守、唯我独尊」
海自は、太平洋戦争後に旧軍の歴史を捨てるところから始まった陸自(創設当時・警察予備隊)とは異なり、旧海軍時代からの風習を守る傾向にある。海自創設後も旧軍の人材を積極的に招いて、さまざまな伝統を引き継ごうとした。
例えば、潜水艦の狭い食堂でさえも、幹部自衛官のみ白いクロスを敷いたテーブルで格式高く食事を取るなど、幹部と曹士の格差が陸・空よりも明確なのは、「伝統墨守」の証拠。こうした、旧帝国海軍からの伝統を引き継いでいるというプライドが、後半の「唯我独尊」に表されている。伝統墨守を良しと考え、それを優れていると自負しているのだ。
航空自衛隊「勇猛果敢、支離滅裂」
移動速度では、陸・海の比にならぬほど速い航空機が主役の空自。対領空侵犯措置のため、戦闘機を緊急発進させるスクランブルに象徴されるように、とにかく急がなければならない任務もある。考えている間もなく事態が進むため、YES・NOの決定は早くせざるを得ない。
こうした何事にも判断が早いことを「勇猛果敢」と捉えるか、「とにかくやってしまえ!」と突き進んだ結果大間違いになる「支離滅裂」ととるか。陸・海に比べて組織が比較的若く、歴史と伝統というような部分にこだわりがあまりないところも、陸・海と比べて柔軟なイメージを想起させる。
フットワークが軽く、決断も早いところを「軽い」ととるか「柔軟性がある」と受け取るかによって印象の違う言葉だ。
【岡芳輝】
1959年、産経新聞社に入社。編集委員、安全保障担当論説委員などを歴任。防衛大学校修士課程非常勤講師の経験も。2017年、82歳でウィーン大学博士課程卒業(Ph.D.)。著書に『平成の自衛隊』(産経新聞ニュースサービス)など
(MAMOR2022年1月号)
<文/臼井総理 イラスト/深川直美>