どうして自衛隊は、陸・海・空と3つに分かれているのか?そして、どう違うのか? それを知るために、今回は海上自衛隊の成り立ちや特徴、任務などを簡単に説明しよう。自然災害時における救助・救援活動のみならず、昨今の世界情勢を見るにつけ、日本が有事に巻き込まれる心配も現実味を帯びてきた今、国と国民を守る各自衛隊への理解を深めるのは重要なことなのだ。
海上自衛隊:伝統を重んじつつ、最新艦も装備。新旧併せ持つのが唯我独尊的
<海自DATA>(数字は2022年3月現在)
人員(うち女性):約4万3000人(約4000人)
基地の数:約20
舞台となったエンタメ作品:映画『亡国のイージス』、『空母 いぶき』、漫画『沈黙の艦隊』、『ジパング』(ともにかわぐちかいじ)、小説『海の底』(有川ひろ)など
出身の有名人:森谷勇太(俳優)時武里帆(作家)白鳥加奈子(モデル・シャンソン歌手)など
四方を海に囲まれた日本は、世界第6位の長い海岸線、同じく第6位(海外領土は含まず)の広大な排他的経済水域(注)を持つ。その海を守るのが、海上自衛隊の役割だ。任務は日本の領域や周辺海域の防衛をはじめ、日本の生命線ともいえる海上交通の安全確保、災害対応や国際協力活動など。
護衛艦49隻、潜水艦22隻をはじめとする多数の艦艇のほか、P−1、P−3C哨戒機、哨戒ヘリコプターなどを保有。人員は約4万3000人。艦艇の母港となる横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊の5大基地のほか、全国各地に航空基地、陸上基地がある。近年では、航空自衛隊と共に日本に対する弾道ミサイル攻撃への対処も任務としている。
(注)漁業、天然資源の採掘などの経済活動や科学的な調査などの活動を、ほかの国に邪魔されずに自由に行うことができる水域
掃海作業に端を発し、創設70周年を迎えた
2022年、創設70周年を迎えた海自。太平洋戦争終結後、旧海軍は解体されたが、日本周辺に敷設された数万に及ぶ機雷を除去するために、船艇を使った掃海作業は旧海軍軍人によって継続されていた。1948年、航路啓開(機雷を除去して安全に航行できるルートをつくる作業)業務は、新設された海上保安庁に移管。
その後52年に「海上警備隊」が発足した。海上警備隊は、同じ52年の保安庁設立とともに「保安庁警備隊」となり、54年、防衛庁・自衛隊発足とともに「海上自衛隊」に改称した。
護衛艦部隊のほか、陸上基地や航空部隊も。最新装備は護衛艦『もがみ』型など
海自には、護衛艦が属する「護衛艦隊」、潜水艦が属する「潜水艦隊」、さらには海上・海中を見張る固定翼の哨戒機や哨戒ヘリコプターを有する航空機部隊「航空集団」がある。
2022年11月現在、海自で最も新しい護衛艦は、『もがみ』型。従来の護衛艦よりも小型で、技術の進歩により少人数の乗組員で運用できるよう設計された最新鋭艦だ。敵の艦艇、潜水艦に対する戦闘力に加え、掃海機能も持つ多機能さと、独特のフォルムや艦体の素材でつくられるステルス性が自慢。
潜水艦では『たいげい』型が22年3月に登場。原子力を使わない通常動力潜水艦としては世界でもトップクラスの潜航能力を持つ。こちらは同型艦が合計6隻造られる計画だ。
アフリカのソマリア沖・アデン湾で、海賊対処行動にあたる
海自の活動は、主に海における警戒監視。哨戒機を使って日本近海の監視を実施しているほか、近年では、近隣国による弾道ミサイル発射に備えてイージス護衛艦を用いた監視などを行っている。
「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動」は、海自が行う国際平和協力活動の中でも長期間継続中の事例だ。同エリアでは過去に海賊活動が多発しており、日本関連船の被害も出ていたことから、海上交通の安全確保やソマリアおよび周辺国の安定のため、協力を行ってきた。
ソマリアの隣国・ジブチ共和国の首都ジブチ市近郊にある自衛隊唯一の海外拠点には、海自のP−3C哨戒機が常時2機派遣されており、空からの海賊対処行動を行っている。
幹部候補生の遠洋練習航海では世界1周も
外国軍との共同訓練などで、海外に行く機会も多い海自。隊員たちから「船で世界1周ができる」という話が出てくるが、もちろんこれも旅行ではなく訓練の一環。
海自の若手幹部を育成する幹部候補生学校では、教育の総括として、世界1周、北米、南米、環太平洋などのコースを約半年かけて航海。2022年で66回目となるこの航海では、航海中の各種訓練や各国への訪問・交流を通じて、船乗りとしての資質や「シーマンシップ」を育てるのが目的だ。
まぶしい白一色の夏服が憧れの的
海自の制服といえば、まばゆい白さの夏服が有名。正帽から靴まで白でそろえられた、この白い夏服を着たいがために海自を志望する若者もいるという。
また冬服は一転してシックな黒を基調としたもの。正帽の帽章は、いかりを輪で囲み、桜の花と葉、つぼみで構成されている。
海自隊員同士で使われる“業界用語”解説
●赤帽(あかぼう)
海自に入隊したばかりの隊員が受ける泳力のテストで、基準に達しなかった隊員がかぶる水泳帽のこと。真っ赤な帽子で、遠くからでもよく見える。
●赤れんが(あかれんが)
広島県・江田島にある海自の幹部候補生学校庁舎の通称。1893年に旧海軍兵学校生徒館として建築された赤れんが造りの学校庁舎に由来する。
●F作業(エフさぎょう)
釣りのこと。「F」はFishingの「F」。娯楽の少ない洋上での自由時間において、息抜きとして釣りをする海自隊員は少なくない。
●カレーライスが付く(││がつく)
2等海佐に昇任すること。正帽ひさしに唐草模様(通称カレーライス)が入ることから出た言葉。「〇〇さん、カレーライス付いたんですね。おめでとうございます」のように使う。
●総員起こし(そういんおこし)
起床ラッパとともに隊員を一斉に起床させるための号令。教育隊ではこの号令の後、素早く服を着、ベッドを整え、点呼をし、体操、ランニング、掃除と続く。海自では「全員」のことを「総員」という。
●立付(たてつけ)
卒業式、入校式などの式典の予行演習のこと。本番での立ち位置に立たせるさまからこう呼ばれる。
●5分前の精神(ごふんまえのせいしん)
旧海軍では、課業などの開始5分前には、直ちに行動にかかれる準備が完了していた。この精神は海自に伝統として受け継がれている。
●帽振れ(ぼうふれ)
帽子を振って別れのあいさつをする行為。艦艇の出航時や、卒業式、定年退官者を見送る行事などで行われる。
●宜候(ヨウソロ)
船が向いている方向か、船舶の航行において指示された方向へ「そのまま進め」という意味の言葉。
(MAMOR2022年1月号)
<文/臼井総理 写真提供/防衛省>