2013年に策定された中期防衛力整備計画に基づき、南西地域の防衛態勢強化を進める防衛省は、18年3月27日、陸上自衛隊に「水陸機動団」を新編した。
島しょ防衛のために、海上自衛隊、航空自衛隊との協同の下、目標地点に迫り上陸、奪還などを行う水陸両用作戦を展開する部隊として、年々その存在感と重要性は高まっている。
水陸機動団は隊員の戦闘服や個人装備も、やはりほかの部隊にないユニークなものが多い。工夫が凝らされたそれらを一挙公開しよう。
ヘリキャスティング隊員
輸送艦から飛び立ったヘリコプターより水上に降下し、目的地に上陸するヘリボーン作戦を担うのがヘリキャスティング隊員である。隊員は海面の約5メートル上空を飛ぶヘリからフィンと背のうをもって水面に飛び降り、そのまま遊泳やボートで上陸を図る。
高所から着水する恐怖を克服し、そのまま最前線に投入される任務のため、レンジャー資格を持っている隊員も多い。その装備品は水陸どちらでも速やかに活動しやすい仕様になっている。
戦闘服:運搬用のフックが背中に
動けなくなった隊員を運ぶため、戦闘服の背中にはつかみが付いている。上着の内部にはベルトを通せるループがありズボンと接続できるので、服をつかんで引っ張っても上着だけが体から脱げ落ちることはない。
ポケット:下部に排水用の穴が
戦闘服のポケットには、全て下部にドレインホールが開いている。また足、胸だけでなく上腕のポケットにもフラップ(蓋)が付いており、水中で行動しても中の物が落ちにくい。
火器:60ミリ迫撃砲も携行
主要火器である89式小銃のほかに、部隊の前進を後方から火力で支援するために60ミリ迫撃砲を携行する隊員もいる。砲身と底板の2つに分解して持ち運び、使用時に素早く組み立てる。
携行品:戦闘弾のうなどに収納された装備一式
救命胴衣の下に付けた戦闘装着帯に弾のうなどが連結されている。これには89式小銃の弾倉や銃剣、救急キットなど必要な装備一式が収納されている。
戦闘フィン:着水後に水中で履く
ヘリから着水した隊員は、まず最初に手に持っている戦闘フィンを両足にはめる。戦闘フィンは推進力が増すよう先割れになっている。
戦闘靴:陸上で履き替え
上陸した隊員は戦闘フィンから戦闘靴に履き替える。この戦闘靴は靴底近くに小さな穴が開いており、内部に入った海水を排出できるようになっている。
AAV7操縦者
海と陸の両方での緊急事態に対処できるよう、AAV7の操縦者の戦闘服、装備も独自の仕様となっている。操縦者の戦闘服は「戦闘服装甲用」と呼ばれ、難燃性がより高くなっており、ポケットには排水用の穴が開いている。
戦闘服の上に防弾用ベストと救命胴衣を着用、緊急呼吸装置の吸引口を喉元から出しておく。戦闘靴はひもではなく面ファスナーで留める方式。また車内には銃床が折り畳み式の89式小銃を携行する。
緊急呼吸装置:非常用に腰に携行
水中から脱出するときに使用する緊急呼吸装置は、緊急時にすぐに作動できるよう常に右腰に携行する。ボンベは空気を3分ほど供給する。
戦闘靴:緊急時に着脱が容易
操縦者の戦闘靴は車両から脱出して靴を履いたまま泳ぐときに海水で重くならないよう、ほかの隊員のものより排水用の穴が大きい。緊急時に靴を挟まれてもすぐ脱げるよう、乗車時はテープを緩めて履いている。
遊泳斥候員(ゆうえいせっこういん)
目標地点に最初に接近する偵察任務を担うのが遊泳斥候員だ。ボートなどで沿岸に近づいて最後は泳いで上陸、その行動は全て隠密裏に行うため、ほかの隊員と違う装備を携行している。
頭にはヘルメットではなく迷彩柄の布製の戦闘帽を着用、ウエットスーツの上に遊泳斥候用の耐水性の高い戦闘服と救命胴衣を着用し、弾倉などの装着帯を着ける。任務の遂行を補助するために身に着ける小さな携行品も特徴のあるものが多い。
水中ナイフ:太ももに装着ワンタッチで着脱
水中で障害物などを切断できるよう、ブレードの峰がのこぎり状になった水中ナイフを携行する。収納ケースからはワンタッチボタンで取り出す。
ライト:味方に合図
任務は夜の闇に紛れ、敵に悟られないよう無言で行われる。上陸した味方への指示や合図は、このハンドライトを使って行われる。
水中コンパス:方向を指示
水中では陸上のように視界が利かないため、自分の進んでいる方向や目標の方向を示す機能のある水中コンパスを装着する。もちろん防水・防圧仕様だ。
戦闘靴:遊泳斥候員が水中で履く
水中では遊泳用のフィンをこの戦闘靴の上に履く。メッシュ製で軟らかくて水はけがよく、ファスナーで留めているため着脱が容易。
ボート要員
ボート要員は偵察ボートに乗船して目標地点へと上陸する。荒れた洋上を高速で航行したり、手こぎで静かに敵に近づいたりなど、状況によりその行動はさまざまに変化する。遊泳斥候員と同様、戦闘服の下にはウエットスーツを着込み、激しく揺れるボートから身体を守るよう耐衝撃用の保護具を着用する。
背のう:総重量約25キロ
陸上での行動のための戦闘靴などを収納している。背のう上部の無線用アンテナは自在に折り曲げることが可能。
救命胴衣:戦闘浮力器材
ボート要員に限らず前線では全ての水陸機動団隊員が着用。小型軽量で、首周りに装着し、左側に見える数珠状のひもを引くと圧縮ガスで膨らむ。
保護具:両ひじ、両ひざに装着
激しく揺れるボート上でひじやひざを打撲から保護するため、ボート要員は保護具を着用。頭部を守るため耐衝撃用ヘルメットもかぶる。
偵察ボート(8人乗り)
<SPEC>全幅:1.9m 全長:4.7m 重量:約150kg 積載量:1250kg 乗員:8人
偵察ボート(8人乗り)は、アメリカ海兵隊などでも使用されているラバー製のボートで、船体内に空気を入れて膨らませる。コンパクトに収納することができ、さまざまな輸送手段が可能なため、偵察行動や奇襲作戦などに使用される。
動力は手こぎ、あるいは船尾に取り付けた船外機で航行することもでき、荒れた洋上でも安定性を保つ構造になっている。水陸機動団では1隻のボートに8人が乗り、上陸を行う。
本体構造:8つの区画
偵察ボートはラバー製で攻撃には弱いが、ボート本体の内部が8つに区切られており、1つの区画が浸水してもボート自体は沈まない構造になっている。
動力:船外機を装着
船尾に1つの船外機を装着することができる。安定性が増すのと敵の攻撃から身を守る理由で、航行中の乗員は身を伏せている。
<文/古里学 写真/村上淳、防衛省 イラスト/野林賢太郎>
(MAMOR2020年4月号)