•  島しょ部防衛のエキスパート部隊「水陸機動団」に配備されている、水上を航行できる装甲車AAV7。AAV7を操縦するには大型特殊免許だけでなく小型船舶免許(1級)も必要である。

     さらに教育隊での着衣水泳などの「洋上活動」の特技の取得、緊急脱出訓練の履修、水陸両用車課程の修了が義務付けられている。今回は水上での水没を想定した「ダンカー(緊急脱出)訓練」に密着した。

    【陸上自衛隊・水陸機動団】
    2013年に策定された中期防衛力整備計画に基づき、南西地域の防衛態勢強化を進める防衛省は、18年3月27日、陸上自衛隊に「水陸機動団」を新編した。島しょ防衛のために、海上自衛隊、航空自衛隊との協同の下、目標地点に迫り上陸、奪還などを行う水陸両用作戦を展開する部隊として、年々その存在感と重要性は高まっている。

    横転、逆さから脱出。ダンカー訓練の全貌とは

    【宙づり状態の訓練用ユニット】救助隊員が待機する中、訓練の隊員が乗り込んだ内部ユニットが水没する

     AAV7に乗り込む上陸要員は最大で21人。完全装備の状態で向かい合って座る。そこから自力で脱出し着衣のまま泳いで離脱する「ダンカー(緊急脱出)訓練」を必ず受けなければならない。

     ダンカー訓練が行われるのは特設の訓練用プール。クレーンでつるされたAAV7を模した訓練用内部ユニットにフル装備の隊員が乗り込み、水上で90度横転あるいは180度上下逆さま状態になって水没する。

     隊員は水中で装備を外し緊急呼吸装置(小型酸素ボンベ)をくわえ、天井の脱出用扉から車外に脱出、水面に浮上し目標地点まで泳いでいく。

     このとき、車体から漏れだした油などが目に入ると失明する危険性があるので、隊員は水中では目を閉じたまま行動しなければならない。

     訓練に慣れるまでは暗闇の中、鼻に水が入ってパニックになることもあるという。

    「目を閉じたまま、ユニットごと上下左右に回転されて、平衡感覚が狂った状態でいかにスムーズに行動するか、また訓練に入る前に車内の構造を細部まで把握し、水中でどのような動きをとるかのイメージ付けが非常に重要です。私たちはさまざまな手段を使って島しょに上陸し、そこで任務を行うので、このダンカー訓練もその一環です」。そう語る第2水陸機動連隊第2中隊長の寺﨑大河3等陸佐自らも、日ごろからこのダンカー訓練を受けている。

     実戦部隊はもちろんのこと、その中隊長も常在戦場なのである。

    水中で装甲車が水没。そのとき隊員は…

    画像: 水中で装甲車が水没。そのとき隊員は…

    隊員を乗せたまま水没する

     横転あるいは180度上下反転したユニット内では隊員は座席に座ったまま水没。このときいかに冷静に、かつ速やかに行動できるかが脱出の成否を分ける。

    画像: 隊員を乗せたまま水没する

    次々と浮上する隊員たち

     ユニット天井にある脱出用扉から次々と脱出する隊員。水中ではライトがない上に目をつぶっているので、車内の構造を体で覚えておく必要がある。

    <文/古里学 写真/村上淳>

    (MAMOR2020年4月号)

    水を馴らし陸を駆ける最強の機動部隊

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