大災害は突然やってくる。今、この瞬間にも起こるかもしれない。そのときにどう行動するか。日ごろから考えておくべきだが、日常生活を送るなかでつい忘れてしまいがちだ。
「災害発生時から3秒間で決断することが生死を分ける」と説くのは、国際緊急援助隊医療チーム(注1)に所属し、国内外の被災地で国際災害レスキューナース(注2)として活躍していた辻直美氏だ。発災直後のサバイバル術を教えてもらった。
【辻 直美】
1995~2020年まで、国際レスキューナースとして国内外の被災地で活動。現在はフリーランスの看護師、一般社団法人「育母塾」代表として、防災関連の講演や執筆活動などを行う
注1:国内外で大規模災害があると、日本政府から緊急に招集されて医療援助を行う独立行政法人国際協力機構の機関。メンバーはボランティアが中心で、医師、看護師、薬剤師、調整員などから構成される
注2:国際緊急援助隊医療チームに所属する看護師のこと。看護師免許、英検2級程度の語学力、5年以上の実務経験などがあり専門の研修を受けた者がなれる
生死を分ける「3秒の決断」
1秒:状況判断
例えば地震が発生した場合、自分が今いる場所が危険かどうかを判断。上から物が落ちてこないか、屋外なら地面に亀裂が起きていないかなどを見極め、開けた広い空間がどこにあるかなど、より安全な場所を探すようにする。
2秒:行動を決める
大規模施設にいる場合は一番近くにある非常口を探し、非常階段などの避難ルートへ安全に進むことができるかどうか、瞬時に考えを巡らせる。屋外にいる場合は近くの公園や広域避難場所に意識を向かわせ、どのように行動するかを決断する。
3秒:行動に移す
屋内にいる場合はテーブルの下に入るなど落下物から身を守るように行動。屋外にいる場合は、広域避難場所など、身の安全が確保できる場所に移動するなどの行動に移す。これら3秒間での行動の実践のためには、日ごろから近くの避難所などの情報を収集しておくことが肝心だ。
災害時には3秒で決断し行動に移すようにする
「レスキュー隊員は『現場では3秒で決断せよ』と言われます」
国内外の被災地で救命活動にあたっていた、国際災害レスキューナースの辻直美さんはそう話す。
「1秒で情報収集して状況を判断。2秒で決断して、3秒目には行動に移す。それができないと、その間に死んでしまう可能性があるからです」
人の生死を分けるという3秒間で、具体的にはどのように状況を判断し、行動すればいいのだろうか。
「たとえば、地震の発生時に、屋内にとどまるべきか外に出るべきか。非常階段へのルートは右か左か。避難場所へ行ったほうがいいのか自宅にいたほうがいいのか……。こうした状況判断や行動の決断を3秒以内に、しかも止まらずに動きながらする必要があります」
なぜ「動きながら」なのか。体の動きが止まるとそれに合わせるかのように気持ちもフリーズしがちで、身動きがとれなくなるからだと、辻さんはいう。だから、屋内で被災して決断する場合でも、足踏みするなどしてとにかく体を動かしたほうがいいそうだ。
「ところが、街中などで地震が起きたときに周りを見てみると皆、その場に立ち止まり、スマホをのぞき込んで地震情報を得ようとしています。でも、そういうときに本来やるべきことは、一刻も早く、自分の周りの状況を見て、身の安全を確保するために行動することです。
上から物が落ちてこないか、地面に亀裂ができていないか、近くで避難できる場所はどこへあるかなど、まずは3秒間で周囲の状況を目で見て判断し、行動に起こすことが生死を分ける堺となります。スマホで地震情報を調べるのは安全な場所に移動し、落ち着いた後でいいんです」
「3秒では無理」という人は…
とはいえ、3秒間で行動に移すというのは難易度が高い。
「早く決断できるようになるには、例えば、平時から自動販売機で飲み物を買うときなどに3秒以内で決めて買う、という練習をするといいでしょう。つまり、1秒でどの自動販売機で飲み物を買うか決めて、2秒でどの飲み物を買うか決める、3秒目でお金を入れて買うようにします。
『3秒では無理』という人は、最初は10秒からはじめて、次に5秒、そして3秒、といったように時間を縮めていくという方法を試してみてください。平時からさまざまなシチュエーションで練習しておけば、誰でも3秒で決断できるようになります。少なくとも、即断するという意識づけができるようになりますね」
(MAMOR2022年9月号)
<文/魚本拓 写真提供/防衛省>