1960年代、子どもたちを熱狂の渦に巻き込んだ空想特撮テレビドラマ 『ウルトラマン』が、庵野秀明&樋口真嗣のタッグによってスクリーンに登場します。この制作に、防衛省・自衛隊が全面協力し、作中では自衛隊も大活躍!5月20日発売のMAMORでは、映画『シン・ウルトラマン』に出演している西島秀俊さん、早見あかりさんへのインタビューをはじめ、作中での自衛隊の描かれ方について特集を組んでいる。
今回は、そのなかから『シン・ウルトラマン』の監督・樋口真嗣さんのインタビューを公開する。
『シン・ウルトラマン』
作品概要:地球上に次々と巨大不明生物「禍威獣」(カイジュウ)が出現。日本政府は禍威獣対策を主とした防災庁および専従組織「禍威獣特設対策室(カイジュウトクセツタイサクシツ)」通称・禍特対(カトクタイ)を設立した。しかし通常兵器での応戦は限界を超え、国土防衛の維持が困難となりつつあった。そんな折に大気圏外から謎の飛翔体が飛来。それは人間と同じ形をした銀色の巨人。禍特対の報告書には「ウルトラマン(仮称)、正体不明」と書かれていた。
脚本:庵野秀明 監督:樋口真嗣 出演:斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり/西島秀俊ほか
製作:円谷プロダクション、東宝、カラー 配給:東宝 TOHOシネマズ日比谷など全国の映画館で公開中
たとえ架空の相手でも戦う段取りは現実に即す
樋口真嗣監督と自衛隊の関わりは長い。特技監督を務めた1995年の『ガメラ 大怪獣空中決戦』では、陸・海・空各自衛隊の協力の下、これまでの怪獣映画にはない本物の迫力をもった自衛隊の戦闘シーンを描き、作品のクオリティーに大きな影響を与えた。そうした自衛隊との関わりで樋口監督が自らに課しているルールは「映画で描く自衛隊像に嘘をつかない」こと。
「防衛省の担当者に脚本をちゃんと読んでもらい、自衛隊がどのように行動するかをチェックしてもらいます。空想特撮映画といいながら、自衛隊が出動するまでの段取りは現実と同じように描いています。人間パートのドラマを描く上で、そのリアリティーがとても大切です」
自衛隊任せだった国防も今後は自分たちで考える
四半世紀におよぶ自衛隊との付き合いの中で自衛官の知り合いが増え、『シン・ウルトラマン』での自衛隊ロケも身内のような気持ちで撮影に臨んだという樋口監督。装備品も日本を取り巻く安全保障環境の変化に伴い、例えば陸上自衛隊の主力装備が戦車から装輪装甲車へと変わり、その影響で映画に登場する装備品も変わってきたと感じている。
「半年前には考えられないような大きな事件が内外で次々と起こる中で、自身がそうした出来事に巻き込まれるかもしれないという事態が現実に発生しています。自衛隊任せにしていた国防についても、いざというときに自分たちに何ができるのか、もっと考えていかなければならないですね」と樋口監督は語った。
カラータイマーとスペシウム光線の秘密とは?
『シン・ウルトラマン』では、オリジナルへ立ち還っている部分が随所に見られる。その1つがカラータイマーだ。ウルトラマンをデザインした成田亨の初期デザインにはこれがない。
特撮シーンには手間と費用がかかることもあり、緊迫感の向上と経費削減策として戦いに時間制限を設けようと、カラータイマーが後から追加されたという。スペシウム光線は、当時はフィルムに光線を描き加えて合成していたため、光線を放つ右腕が動いて光線とずれないよう左手で支えるポーズが生まれた。
【樋口真嗣】
1965年東京都生まれ。84年公開の『ゴジラ』(東宝)の特殊造形にかかわったことで映画界に入る。95年から始まる平成ガメラ3部作で特技監督を務め、2005年『ローレライ』(東宝)で監督デビュー。『日本沈没』(06年東宝)、『のぼうの城』(12年東宝、アスミック・エース)、『シン・ゴジラ』(16年東宝)、『ひそねとまそたん』(18年BSフジほか)などの話題作を世に出した
(MAMOR2022年7月号)
<文/古里学 撮影/村上淳>
※MAMOR 5月20日発売号の特集「シン・ウルトラマンと新しい自衛隊の描かれ方」より