“ビッグボス”のような“ニュータイプ”の誕生でにぎわっているプロ野球の監督は、その思想や指揮スタイルに個性(タイプ)が顕著に表れやすいため、ビジネスにおける管理職論として語られることも多い。では、同じく戦いに勝つことを目的とする自衛官たちには、どのタイプが好まれるのだろう。
歴代プロ野球監督の中から、マモル編集部がスポーツジャーナリストの鷲田康氏に監修いただいて選んだ5つのタイプから、現役の自衛官たちに支持するタイプを選んでいただいた。
自衛官が好きな野球監督はどのタイプ?
【原 辰徳タイプ】部下にチームへの献身を植え付け、勝利に導く
選手時代は、1980~90年代にかけて巨人の4番を張り続けた。爽やかなイメージから「若大将」と呼ばれたが、彼の本質は肝の据わった決断力にある。
監督としては、現在まで3度巨人を率いているが、批判を覚悟でトリッキーな作戦を実行、チームの主軸選手にも献身と犠牲を求めるなど、強い姿勢で選手たちに相対した。強いチームをつくるため、目的意識を共有した上で、自身も固定観念を捨てて行動。人を動かし、組織を改革してきた指揮官だ。
【野村克也タイプ】「思考」を理論的に体系化して成功に導く
昭和の大捕手、野村克也。監督としてのスタイルは「ID野球」と呼ばれ、データ活用と「考える野球」を徹底。講義形式のミーティングをたびたび行い、選手にノートをとらせたことは有名。
野球選手に「考えること」を求め、弱小球団ともいわれたヤクルトを常勝軍団に育て上げた采配は見事の一言。そのほか、伸び悩む選手を活躍させる手腕から「野村再生工場」などと呼ばれるなど、「人づくり」にも定評がある監督だった。
【新庄剛志タイプ】型破りな言動・行動で部下のやる気を引き出す
選手時代は並外れた守備力と、意外性ある打撃、そして自らを演出する能力を備えた「記憶に残る選手」。2001年からはアメリカ大リーグに挑戦し、04年に日本復帰。北海道移転間もない日本ハムファイターズに入団し、数々の話題を振りまいた。
21年、ファイターズの監督に就任。指揮官としては未知数だが、ハデな振る舞いで注目を集めてBクラスに沈んできたチームのムードを一新。野村監督の下で育っただけに、巧みなマスコミ操作で進めるチーム改革がどこまで成功するかが注目される。
【星野仙一タイプ】「情」と「信頼」で心に訴えて部下を動かす
「燃える男」というキャッチフレーズが似合う男。中日一筋の現役時代から熱血ぶりは有名だった。引退後は中日、阪神、楽天で監督を務め、全チームでリーグ優勝を経験。
監督時代も熱いエピソードには事欠かず、選手への鉄拳制裁や試合での乱闘劇などがよく話題になったが、けっして「恐怖」だけでチームを率いたわけではない。熱い情熱で選手からの信頼も厚く、巧みに恐怖と情を使い分けながらチームをまとめていった。
【長嶋茂雄タイプ】カリスマ性で部下を引き付け統率する
いわずと知れた「ミスタージャイアンツ」。監督としては、類いまれなるカリスマ性で選手たちを引っ張り、常識にとらわれず、想像力を広げて縦横無尽にタクトを振るった。
すでにあるセオリーに従うのではなく、自らセオリーを創り出す力も抜群。現役選手時代同様、大舞台に強く、1994年に行われた中日とのいわゆる「10・8決戦」は今でも野球ファンの語り草。チームの命運をかけた大勝負で選手の力を引き出してきた言葉力も特別だ。
第一線で任務につく自衛官136人に聞いた!隊長にするならどのタイプ?
いっぽう、命令を受ける立場の隊員にとって、ときに命を預けることとなる指揮官のリーダーシップは士気に関わる重要なファクターだ。彼らはどのようなタイプのリーダーを求め、ついていきたいと思うのだろうか? 自分たちの部隊の隊長になってほしいタイプの野球監督を答えてもらった。
1位:星野仙一タイプ
「有事の際、危険を顧みず任務遂行を求められる自衛隊員にとって、指揮官との“情”と“信頼”は大切だと思うから」(補給隊・2等空曹)
「厳しい訓練中にも“情”があれば多少きつくても頑張ることができて、部隊が強くなっていくと思う」(護衛艦乗組員・1等海曹)
「情熱をもって指導し、“指揮官率先”で道を切り開いてくれる人に仕えたい」(飛行隊・1等海尉)
「失敗が許されない任務を行うため指揮官に命を預けているので、信頼できる人がなってほしい」(護衛艦乗組員・1等海曹)
2位:新庄剛志タイプ
「型破りなだけでなく結果を出すところに魅力を感じる」 (飛行隊・1等海尉)
「その場にいてくれるだけで頑張ろうという気持ちになれそう」(護衛艦乗組員・2等海尉)
「誰も思いつかないようなアイデアで士気を高めてくれそう」(航空隊・2等海尉)
「ユーモアのある上司だととても楽しく仕事ができる」(飛行隊・2等海尉)
「コロナの感染拡大により既存の考え方が通用しない事が多くなった中、型破りな思考や行動ができる上司は、現状を打破し先に進む道を示してくれると思う」(普通科連隊・2等陸曹)
3位:野村克也タイプ
「根拠がしっかりとして理論に基づいた命令であれば納得して行動に移しやすい」(管理隊・3等空曹)
「論理的に指導してもらったほうが、指揮官が不在の場合でも継続して部隊運用ができると思う」(衛生隊・空曹長)
「思考を重ね、皆でぶつけ合って答えを導き出させる指揮官が私の理想です」(護衛艦乗組員・1等海曹)
「理論的な指揮官の考えを隊員として理解して訓練することで、部隊の精強化につながると考えます」(戦車大隊・3等陸曹)
4位:長嶋茂雄タイプ
「部隊を強くけん引するカリスマ性のある指揮官が必要だと感じます」(飛行群・3等空尉)
「艦艇では100人以上の乗員が24時間ずっと一緒です。部下としては『この人についていきたい!』と思わせてくれるようなカリスマ性をもった艦長が上にいてくれたらうれしいです」(護衛艦乗組員・2等海尉)
「過去にこのタイプの上司に仕え、士気が上がり、仕事や訓練に取り組みやすかった」(特科隊・2等陸曹)
「尊敬している上司はカリスマ性にあふれる人です」(普通科連隊・3等陸曹)
5位:原 辰徳タイプ
「組織が一体となって任務を遂行するために、部隊への貢献という意識を隊員に植え付けることは大切だと思います」(補給隊・1等空曹)
「原監督の指導のように個々に献身的な行動をさせることが任務達成につながると考えるため」(飛行隊・2等海尉)
「任務を完遂するためには原監督のように各人に自分の役割を自覚させ、果たさせることが必要」(飛行隊・3等海佐)
「自衛隊は団体行動が基本であり原監督のようにチーム意識を考えさせることで一致団結できると思う」(普通科連隊・3等陸曹)
部隊を率いる指揮官75人に聞いた! あなたはどのタイプが好き?
部隊を率いる自衛隊の指揮官たちも、「勝つ」という共通の目的を持ちながらも職種の特性や個人の考え方などによりそれぞれタイプは異なる。前出の野球監督に例えると、どのタイプの指揮官が支持されるのだろうか? 現役指揮官たちに聞いた結果をランキング形式で発表しよう。
1位:星野仙一タイプ
「ときには星野監督自らが退場してしまうこともありましたが、自身の信念にのっとり、1歩も引かず、自己を犠牲にしてでもチームを守る姿は、まさに理想の指揮官です」(通信隊小隊長・3等空尉)
「同じ目標に向かう者として、部下と一緒に笑い、泣き、一緒に目標を達成して喜び、達成できなかった場合は一緒に反省して再チャレンジする指揮官でありたい」(装備隊・1等空尉)
「人の力を引き出すことに長けていた星野監督を理想の指揮官像として日ごろから目指している」(護衛艦艦長・1等海佐)
2位:野村克也タイプ
「指揮官は理路整然と建設的に部下を納得させる知識と全ての隊員を包み込む包容力が必要であり、野村監督のような指揮官は私の理想像でもある」(施設隊長・3等空佐)
「『ID野球』のように推測、臆測を排して理論的に考えて決断する指揮官でありたい」(飛行隊長・2等海佐)
「成果をしっかり分析して、次の機会に反映することが必要だと考えているから」(特科隊中隊長・1等陸尉)
「選手を活躍させるため、具体的な目標を設定し、それを達成するための段階的な基準を設ける手法は見習いたい」(普通科連隊長・1等陸佐)
3位:原 辰徳タイプ
「強い姿勢で選手たちに相対した原監督の手段は、われわれが任務を達成するために、部下に訴えかけることと同じと考えている」(修理隊・2等空尉)
「陰で努力している隊員を皆の前で褒め、苦手な部分も助言して改善できるよう指導する私の指導法が、原監督の指導方法と同様、人を動かす原動力になると考えている」(飛行場勤務隊長・3等空佐)
「原監督が主力選手へもチームへの献身を求めたように、任務達成のためには、隊員1人ひとりが力を発揮することが必要だと考えている」(普通科連隊長・1等陸佐)
4位:新庄剛志タイプ
「前例にとらわれないサプライズなイベントなどに魅力を感じるから」(装備隊長・3等空佐)
「新庄監督と同じく、自分は何事にも面白さを求めるから」(車両器材隊長・1等空尉)
「特に難しい説明をする際は、新庄監督のようにあえて自衛隊と全く関係のないことに例えたりすることによってニュアンスが伝わりやすいと思っている」(護衛艦艦長・2等海佐)
「『努力は陰でするもの』をモットーに、新庄監督のように部下の前ではつらい顔は見せない!」(戦車大隊本部管理中隊長・1等陸尉)
5位:長嶋茂雄タイプ
「自分は論理的に言葉で部下隊員に説明、教導するのは苦手ですが、長嶋監督のような指揮官を目指してキャラクターと熱意でカバーしています」(修理隊・2等空尉)
「戦場の混乱の中においても、部隊が一丸となって任務を達成するためには、長嶋監督のような人を引きつけるカリスマ性のある指揮官が必要だと思います」(高射中隊長・3等陸佐)
【監修 鷲田康】
スポーツジャーナリスト。報知新聞社で約10年間読売ジャイアンツ取材に携わった後に独立。著書に『勝つプロ野球監督論』(幻冬舎)などがある
(MAMOR2022年6月号)
<文/臼井総理 イラスト/やくみつる>
ー自衛隊ビッグボスー