•  2021年10月、航空自衛隊第41教育飛行隊が、鳥取県の美保基地から静岡県の浜松基地に引っ越しました。

     部隊の引っ越しは、そこで働く隊員の職場や隊舎を新たに作る必要があり、何年にもわたって計画を進める大規模なものです。しかも、その間に任務を止めるわけにはいきません。ではどうやって引っ越ししたのか? めったに見られない自衛隊航空部隊の引っ越しに密着しました。

    効率化と質の向上を狙い部隊移動と組織改編が決定

    画像: 効率化と質の向上を狙い部隊移動と組織改編が決定

     第41教育飛行隊は美保基地に所在し、輸送機を実際に運用する第3輸送航空隊の傘下でパイロット教育が行われてきた。実任務を担う部隊と同じ場所で教育を行う意義もあったが、教育ノウハウの共有やほかの教育部隊との連携が不十分であるなどの課題もあったため、2018年ごろから空自の教育部隊が集中する静岡県の浜松基地に第41教育飛行隊を移動させ、より効率的なパイロット教育を目指す計画が立ち上がる。

    「第41教育飛行隊の浜松基地移転にあたり、従来属していた航空支援集団・第3輸送航空隊から、教育を主に担当する航空教育集団・第1航空団へと組織改編が行われました」と第1航空団司令兼浜松基地司令の熊谷三郎空将補は話す。

    浜松に移動する狙いは、教育の場を集約するため

    「空自発祥の地であり教育のメッカである浜松で教育が行われることで、より精強なパイロットの育成が期待されます」と熊谷空将補

     第41教育飛行隊の浜松移転は、単に部隊が引っ越すだけにとどまらず、隷属替えという変化が起きた。熊谷空将補に引っ越しと組織改編の意義を聞いた。

    「第1の意義は、これまで浜松と美保に分散していた国内におけるパイロット育成、基本操縦課程の部分を、浜松で全て行うようになることで、よりよい教育環境を整えることができるという点です。第2の意義として、浜松は気候が飛行訓練にとても適しています。日本海側の美保は特に冬季の訓練環境において雪の影響がありました。その点浜松は、温暖で冬季降雪量もほぼゼロです」と熊谷空将補。第31、32教育飛行隊(図参照)を持つ第1航空団に加わると、さらなるシナジーが得られると力説する。

    画像1: 浜松に移動する狙いは、教育の場を集約するため

    「教育飛行隊が増えることで、ライバル意識、お互いに切磋琢磨する意識が芽生えるでしょう。また現場部隊での経験を持つ教官たちの交流が盛んになることで、教官、ひいては教育自体のレベルアップにもつながります。自衛隊のパイロットは、困難な状況でも屈せず逃げ出さずに任務を果たすことが求められます。第41教育飛行隊がこれまで輩出した約500人のパイロットたちに続く人材を供給できるよう、第1航空団として全力で取り組みます」

    画像: 第41教育飛行隊の隷属変更に伴い、2021年10月15日に美保基地において、周辺自治体や協力団体の関係者を招いての壮行会が行われた。写真は10月28日、最後のT-400が美保基地を旅立つ前に行われた隊旗返還の式典

    第41教育飛行隊の隷属変更に伴い、2021年10月15日に美保基地において、周辺自治体や協力団体の関係者を招いての壮行会が行われた。写真は10月28日、最後のT-400が美保基地を旅立つ前に行われた隊旗返還の式典

     戦闘機、輸送機・救難機部隊それぞれの運用や文化を相互に活用し、より精強な航空自衛隊が作られると熊谷空将補は語る。

     部隊の移動は20年度に計画されていたが施設整備完了時期などの変更により延期に。21年10月に正式に浜松へ移転することが決定。ここに航空機13機、教官や教育中の学生など総勢百数十人に及ぶ部隊の引っ越しが始まった。

    画像2: 浜松に移動する狙いは、教育の場を集約するため

    T-400

     T-400は1996年から導入が始まった練習機で、ビーチジェット400Aという6人乗りのビジネスジェットをベースにしている双発ジェット機。アメリカ空軍でもほぼ同型の機体を運用している

    <SPEC>全幅:13.26m 全長:14.75m 全高:4.24m 最大速度:約870km/h  乗員:パイロット2人+後部座席4人

    実録、自衛隊の引越し!

    <文/臼井総理 撮影/増元幸司 イラスト/石川日向>

    (MAMOR2022年2月号)

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