日本の平和は、世界各国間の外交や軍事による勢力争いなど、刻々と変化する国際情勢に大きく影響される。そのため、それを守るには、関係諸国の動きを正しく読み解き、適切に対処する必要がある。私たちも日ごろから理解に努めようと思っているが、複雑化する現代の国際状況を理解するのは、なかなか難しいものだ。
そこでマモルは、「地図なら、スマートフォンの操作のように世界を直観的に理解できる」と考え、日本の防衛を読み解くためのマップをまとめた地図帳を作ってみた。
日本の防衛が分かる逆さ地図
現在、日本の周辺で起きていることの意味を知るために、まず周辺諸国にとって日本がどのような位置に置かれているのか理解する必要がある。見慣れた世界地図を逆さにして、大陸側から日本を見てみよう。
進出を阻む位置にある日本。開かれたインド太平洋が焦点に
前回の記事では、2000年代にはいって中国とロシアの外部進出が活発化してきた歴史的背景を解説した。そんな中国、ロシアにとって日本は、逆さ地図で見るとまさに外洋進出の障害物のような場所に存在している。中国にとっての東シナ海、ロシアにとっての日本海は自分の裏庭という認識であるのに、日本が目の前に立ちはだかっている。その上、日本には強力な在日アメリカ軍が駐留しているため、思うような活動ができていないというジレンマを抱いている。
地政学的にみると、特にアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になった中国は、これまでのランドパワーだけでなくシーパワーにおいても覇権を握ろうとすると奥山氏は言う。一方、中国やアメリカに対し現在の国力で劣るロシアは、最近になって北極海ルートという新しい金脈を持つこととなった。
「北極海はこれまで氷に閉ざされて船の通行は不可能でしたが、地球温暖化の影響で北極の氷が融けて日本、アジアとヨーロッパを結ぶ航路ができたのです。これはスエズ運河を通る航路より距離が約3割短いうえに、マラッカ海峡やホルムズ海峡のように海賊も出没しない。航行許可はロシアが出せるということで、ロシアにとって航路上にある北方領土の重要性がより一層高まりました。ロシア軍機の領空侵犯が増えたり、ロシア首相が北方領土を訪問したのもその影響です」
こうした状況下で、日本はどのようにするのがよいだろうか。アメリカと一緒になって中国やロシアの進出を抑止するというこれまでの路線、海上自衛隊を中心に監視・情報収集を強化するということは基本であるとして、さらに「自由で開かれたインド太平洋」という考えに奥山氏は注目し、以下のように語った。
「特に最近、南シナ海をめぐって米中が互いに激しく非難を繰り返していることに注目が集まっています。しかし焦点を南シナ海だけの問題にとどめるのではなく、インド太平洋という枠組みに広げて考える必要があります。この領域をめぐって、日米とおなじ価値観を共有するインド、オーストラリア、さらに日本、中国、インドの戦略的パートナーであるEU諸国まで安全保障のプレーヤーに加えることにより、米中の大国同士では進展しない問題も、多国間との交渉ではより譲歩を引き出しやすくなります。バイデン政権になってアメリカはこれまで以上に同盟国に協調・協力を求めるようになるでしょう」
中国艦艇・船舶による近年の日本周辺海域での活動の推移
日本周辺海域で継続的に活動を行う中国の海上戦力。近年の活動回数の推移が、それを裏付けている。
ほぼ毎日のように領海侵入を繰り返す中国の船舶
中国海警局に所属する船舶などの尖閣諸島周辺における領海侵入日数の推移
中国公船が尖閣諸島領海の外側の接続水域(注)を航行した日数は2019年が282日、20年は333日、そして21年は3月までですでに81日にも上っている。領海侵入も常態化しており、台風などで航行できない日以外はほぼ毎日のように領海に侵入。このような活動に対し、日本は厳重な抗議と退去要求を繰り返している。
※接続水域:領海の外側に広がり、基線から24海里(約44km)までの海域で、沿岸国が設定する水域。自国の領土または領海内における通関、財政、出入国管理(密輸入や密入国等)のほか、衛生に関する法令違反の防止及び処罰を行うことが認められる
頻繁に行われる対馬海峡通過
中国戦闘艦艇の対馬海峡通過公表回数
従来から日本海での活動を行っていた中国の海上戦力は、2018年以降、対馬海峡の通過を伴う活動をいっそう活発化しており、今後も拡大すると考えられる。
継続する太平洋への進出行動
中国軍機の沖縄本島・宮古島間の通過公表回数
中国軍の航空戦力は南西諸島付近での活動を活発化。沖縄本島・宮古島間を経由し東シナ海から太平洋へ進出し、再び同じルートで引き返す飛行などが確認されている。
【奥山真司氏】
国際地政学研究所上席研究員。戦略研究学会理事。戦略学博士。専門は地政学、戦略研究。防衛省幹部学校講師。主な著書に『地政学――アメリカの世界戦略地図』(五月書房)、『サクッとわかるビジネス教養 地政学』(新星出版社)、『"悪の論理"で世界は動く!』(フォレスト出版)など
※本特集内の地図は全て、概念を示すためのイメージ図です。地図上の範囲や航路、配置などは実際の正確なものではありません。
(MAMOR2021年11月号)
<文/古里学 地図製作/東海図版株式会社 地形レリーフ出典 : 国土地理院(グラフ出典/令和3年版防衛白書)>
ーマモル・アトラスー