自衛隊にはさまざまなフォルムを持った特殊な装備品がたくさんある。その掃除方法はやはり特殊なのだろうか?
戦車や航空機、護衛艦など、「これはどうやって洗うんだろう?」と疑問に思った装備品の掃除法を調べてみた。
戦車の掃除:自作の専用へらで、履帯に付いた硬い泥をこそぎ落とす

機動力に優れ、ネットワーク通信力を備えた最新の戦車である10式戦車

まずは高圧洗浄機を使って水を吹きかけ、上部から下に向かって汚れを落としていく。洗いながら装甲や履帯の継ぎ目など、各部品の亀裂や欠損、変形がないかを必ず確認している
豪快に泥を跳ね飛ばしながら疾走する戦車の洗車には、高圧洗浄機を使う。泥やほこりなどを上から下の順番で全体的に落とし、その後ブラシなどを使って細かく掃除。


走行後の履帯や転輪には、硬く圧縮された泥が付着する。掃除の際は、部隊で溶接・自作した鉄製のへら、通称「泥落とし」で泥をこそぎ落とす
足回りにこびり付いているカチカチに圧縮された泥は、戦車部隊で「泥落とし」と呼んでいる鉄製のへらを使ってこそぎ落とす。終わったら、再度高圧洗浄機で掃除する。

足回りを洗う際は、油圧サスペンションで車体を一番高く上げ、履帯と転輪の間に隙間を作った上で高圧洗浄機で泥を落とす
「泥落とし」は各戦車部隊でそれぞれ自作をしているため形は異なっているそうだが、履帯に付いた土を丁寧に取り除くことで不具合を発見しやすくし、重大な事故になる前の予防整備を兼ねている。また、合わせて戦車乗員として常に戦車を大切にする心も養っているそうだ。
砲の掃除:施線砲は専用ブラシで多人数で手入れをする

8輪の車両に、戦車のような火砲を搭載した16式機動戦闘車

砲の掃除は力仕事。多人数が必要なので、担当する車両だけではなく、ほかの車両の乗員と共同で数両まとめて行う。1両だけが射撃することはないので、手入れは半日仕事に
砲の内部に砲弾の直進性を高める「ライフリング(施線)」と呼ばれるらせん状の溝が掘ってある16式機動戦闘車や74式戦車の105ミリ施線砲などの掃除は、単に内部をこすると溝を傷つけてしまう。

砲の薬きょうが収まる「薬室」を掃除する「薬室ブラシ」(写真中央)。右のスポンジを使うこともある。左は細部を掃除するブラシ
そのため、専用の長い棒(洗桿)の先にブラシなどを装着して掃除をする。そのほかウエスやスポンジ、ナイロンたわしなどを使い分ける。

ブラシを付けた掃除用の棒、洗桿を砲の先端から入れて掃除。油の塗布をする際は、ウエス(布)を巻き付けて使う
155ミリりゅう弾砲FH70はライフリングがない砲身だが、戦車砲と違い砲口からではなく弾薬を込める閉鎖機側から長いブラシを入れてすすを落とした後、油を染み込ませた布で砲身内を磨く。
高機動車の掃除:洗車用ブラシと洗剤で丁寧に清掃

隊員の輸送や火砲の運搬など、広範囲に使用される輸送車両
高機動車の掃除は使用後の整備を兼ね、洗車をしながらライト類など各部に不具合がないかを確認している。

タイヤとボディーの間が広い高機動車は、足まわりに汚れがつきやすい。高圧洗浄機で大きな汚れを落とし、細い汚れはブラシなどを使う
泥汚れが付きやすい車内の床は、水とブラシで洗い流す。洗車後はウエスで拭き、外観部の亀裂やへこみがないか、タイヤの空気圧などの点検も行っている。
NBC偵察車の掃除:各種センサー類を保護して水洗い。自己除染機能も利用

放射線の測定や、有毒物質の検知、識別機能を持つ特殊車両

NBC(核・生物・化学)兵器に対処するNBC偵察車は、除染剤をスプレーする自己除染機能を持つ。これを活用して水を噴射し、タイヤの泥を落とす
車体は高圧洗浄機で洗う。ただしNBC偵察車の場合、化学剤や生物剤のセンサーや、環境測定センサーなどが車体外部に装着されているため、高圧洗浄機から放出された水が精密機器に直接かからないように注意を払って行っている。
坑道掘削装置の掃除:ビット(掘削刃)を1本1本外して掃除

先端のドリルビットで崖面などを削り、トンネルを掘る装備
戦場で車両や陣地を隠すための坑道を掘る坑道掘削装置。ビット(掘削刃)がたくさん付いた先端部が特徴的な装備だ。

石や泥が隙間に入り込んで動かなくなってしまわないよう、ビット(掘削刃)を1本ずつ外して、内部の汚れをブラシなどを使って落とす
泥やほこりを高圧洗浄機で落としたあと、細かい部分をブラシで掃除するが、岩盤から削り落とされた細かい石や泥が機械の隙間部分に入り込んで固まってしまうこともあり、これらを強度と耐久性のある市販の「割柄ドライバー」でたたき割ったりして落とす。さらに先端のビット部分は1本1本外してビットが取り付けられている部分に入った汚れも掃除する。
(MAMOR2020年12月号)
<文/臼井総理>