ひっそりと現役を退く装備品はいったいどのような余生を送ることになるのだろうか。調べてみた。
売却されない、退役した装備品たちはどこへいく?
自衛隊の装備品は、武器という特殊な性格を持つものが多い。耐用年数が当初の設定を過ぎたり用途が廃止されると処分されることになるが、その処分はわれわれが不用になった日用品をリサイクルショップに持って行くことをイメージすると分かりやすい。
つまり、価値がまだありリサイクル品として店に買い取ってもらう場合と、価値がないためお金を払って処分してもらう場合の2種類に分かれる。不用となった装備品は、裁断や溶解処理をして鉄くずやスクラップとして売り払うことが基本だ。
担当する業者は一般競争入札で選ばれるが、装備品には外部に漏らせない機密情報もあるので、原形をとどめないほど細かい破砕を要請し、その作業現場には監督官が派遣されることもある。破砕されると鉄やアルミなどの素材ごとに分別されるので、戦車1両、艦艇1隻でいくらというような装備品そのものの価格は分からない場合が多い。
中にはリサイクルに適さない素材を多く使用した装備品もあり、そちらは自衛隊側が費用を負担して廃棄処分してもらうことになる。どちらの場合でも、武器として使用できないよう、また情報漏えいにならないよう細心の注意を払って処分しているのである。
処分せず、装備品を再活用するケースも
引退するとはいえ、なかには極めて機密性の高い装備品や、小銃などそのまま武器になるものもあり、その場合は民間に出さず、自衛隊自身で分解、裁断することもある。
それ以外では、隊員の教育や広報目的で基地・駐屯地や展示室などに展示されるケースもある。2020年9月8日には、退役が決まったF-4EJ(改)戦闘機が航空自衛隊百里基地から美保基地まで飛行し、その後武装や機器を取り外して基地内に展示されることに。多くの場合は、退役後に陸路で運搬される展示用の装備品だが、引退セレモニーを兼ねて展示される基地へのラストフライトという、珍しいケースだ。ほかにも、民間の博物館などに展示されることもある。海上自衛隊が運用している南極観測船は見学したいという声が多いため、歴代の南極観測船は各地で引き取られた。航空機も機体をそのまま、あるいは機首や尾翼など裁断された一部分が展示される例もある。
各国の軍隊はどう処分する?
海外の軍隊ではどうしているか、世界の軍事情報に詳しい菊池雅之氏に話を聞いてみた。
菊池氏によると各国での兵器の処分方法は、廃棄・スクラップ、民間への払い下げ、他国軍への売却、ビジネス利用、博物館などでの展示の5つが主な方法だという。
自衛隊で主に行われる廃棄・スクラップは海外でも同じこと。ただ鉄くずにするだけでなく、航空機や艦船の射撃の目標物として利用したのち破壊され、処分することもある。
また、民間への払い下げも多く行われており、外国へ払い下げることもある。これは日本ではあまり行われていないが、海外のケースでは、数奇な運命をたどった輸出中古装備品もあった。「第2次世界大戦で活躍したソ連軍のT-34戦車は朝鮮戦争後に各国へ売却されたのですが、そのうちの何台かがベトナム戦争を戦ったのちに北ベトナム軍から今度はラオス軍に転売されて主力戦車となりました。しかしさすがに古くなったということで処分が決まったのですが、今度はその話を聞きつけたロシアがそのTー34戦車を買い取り、第2次世界大戦75周年記念パレードで走らせたそうです」と菊池氏。
ビジネス利用としては映画会社へのレンタルなどがある。映画『パール・ハーバー』(2001年・アメリカ)では年代が違うとはいえ本物の艦船を爆破し、CGでは出せない臨場感が話題になった。
「自衛隊も映画『シン・ゴジラ』で撮影に協力しましたが、こちらは広報活動の一環として燃料費以外無料でした。一方でアメリカ軍の場合は人件費まで請求して、しっかりとビジネスにしています」と菊池氏は言う。
日本でもよく行われている広報展示。海外でよくあるのは、敵から奪った「ろ獲兵器」を展示して歴史を解説するケースである。日本では、自沈した北朝鮮の工作船が海上保安庁の資料館で公開されている例があるが、やはり、制約の少ない外国軍のほうが、不用物品の処分方法はバラエティーに富んでいるようだ。
【菊池雅之氏】
軍事フォトジャーナリスト。写真週刊誌編集部を経てフリーに。主な著書に『陸自男子』(コスミック出版)、などがある
(MAMOR2021年1月号)
<文/古里学 撮影/田中秀典>