•  2020年8月、日本製レーダーがフィリピン軍に採用されることが決まった。「日本の防衛装備、初めての輸出!」と話題になった国産レーダーだが、レーダーといえば、天気予報から野球の球速測定、最近ではクルマの自動運転技術など、私たちの暮らしに身近な装置。しかし、なぜ、見えないモノの位置や速度などが分かったりするか、疑問に思うことはないだろうか。

     いったいレーダーはどのようにして目標を探知しているのだろうか? ここでは、レーダーの基本的な原理や仕組みについて解説する。

    レーダーは発射・反射した電波をとらえて目標を探知する

    波長は電波の1周期(山と山の感覚)の長さ。1秒間の波の数を周波数という

     防衛装備として不可欠なレーダーだが、私たちの日常生活でもレーダーは活用されている。その代表格に気象レーダーがある。気象庁の「雨雲レーダー」は、大気中の水滴を探知している。

     さて、そもそもレーダーとはどういう機器なのだろう。レーダーは、電波を用いてさまざまな物体を探知する装置だ。電波の存在を確認したのはハインリヒ・ヘルツというドイツ人学者で、1888年のこと。ちなみに、光と電波は電磁波と呼ばれる同じ物理現象だ。

    バンド(周波数帯、GHz=10億Hz)ごとの使用例。電磁波はレーダー以外にも、通信など、さまざまな用途で使用されている

     電波は振動しながら空間を光速で伝搬するが、その振動の頻度を意味する言葉が周波数。単位はヘルツ(Hz)で、1秒間に何回の振動が発生するかという意味。そして、周波数の領域を示す言葉として「バンド(周波数帯)」がある。一般的な傾向として、電波は周波数が高くなると直進性が増すが伝搬できる距離は短くなる。そこで、レーダーに求める性能に応じて周波数を使い分けている。

     レーダーは電波の「こだま」を測る装置だ。電波は物体に当たると反射する性質を持つ。レーダーから電波を送信し、物体に当たり反射してきた電波を受信することで探知が成立する。だから、レーダーで探知できる対象は航空機だけではない。電波を反射する物ならば何でも探知の対象になる。しかも、昼夜・天候を問わないし、目視できない遠方までカバーできる。

     しかし、単に電波が戻ってきただけでは、「何かいるぞ」ということしか分からず、それが「どこにいるか」までは分からない。そこでレーダーには、探知目標の方位と距離を知るための仕組みがある。

    方位と距離はどうやって測っている?

    雲や雨粒を探知する「雨雲レーダー」など、レーダーは電波を用いて目標を探知する

     まず方位だが、これは電波を送受信するアンテナの向きによって分かる。次に距離だが、これは電波を送信してから反射波を受信するまでの時間を調べる。電波の伝播速度は光速(秒速約30万キロメートル)だから、例えば送信から受信までにかかった時間が0.001秒ならば、その間に電波は約300キロメートル移動していると計算できる。ただしこれは往復だから、レーダーから物体までの距離はその半分の約150キロメートルだ。

     われわれが山のこだまを聞こうとするとき、できるだけ強い声を短く発し、「こだまが戻ってこないかな」と静かに聞き耳をたてる。レーダーはこれと同じ動作をする。つまり、まずアンテナを送信機につなぎ「パルス波」と呼ばれる短く強い電波を放出し、直後にアンテナを受信機につなぎ変えて受信をはじめる。あらかじめ設定された、反射波が戻ってくるはずの時間が過ぎたら、次の送受信動作を繰り返す。この間にアンテナを回転するなどして、電波を発射する向きを変える。こうして周囲の目標を探索していく。

    初の軍用レーダーはイギリス軍により誕生した!?

    画像: 初の軍用レーダーはイギリス軍により誕生した!?

     最初に電波の存在を確認したヘルツは、当時すでに電波が金属物体によって反射されることを確認していた。ただ、実用的な軍用レーダーが出てきたのは、1930年代後半の話。

     当時のイギリス空軍省は、国立技術研究所の技術者、ワトソン・ワットに電波を使った殺傷兵器(殺人光線)ができないかを尋ねた。対してワットは、「殺人光線は無理だが、航空機が通ると短波通信が乱される現象が発生する。その現象を利用すれば航空機を探知できるのではないか?」と回答。当時のイギリス軍は「敵の航空機の侵入をどうやって迎え撃てばよいか」という課題に直面していたため、それらが結びついて、レーダーの開発につながった。

    (MAMOR2021年2月号)

    <文/井上孝司 イラスト/akinori washida>

    知りたい!レーダーの基礎知識

    This article is a sponsored article by
    ''.