自衛隊のアクロバット飛行というと航空自衛隊の「ブルーインパルス」が有名だが、海上自衛隊には、プロペラ機で展示飛行をする「ホワイトアローズ」がある。大空に華麗なマニューバを描く“飛行機野郎”の正体は、航空要員を育てる教官たちだ。
学生に操縦技術を伝えるため、機体の性能をギリギリまで引き出し、鮮やかに大空をダンスするのだ。
展示飛行チーム「ホワイトアローズ」とは
教官の技量向上を目的に創設され展示飛行を披露
「ホワイトアローズ」とは、海上自衛隊小月航空基地の第201教育航空隊の教官たちで編成された特別曲技飛行チームの愛称だ。練習機T−5、4機で構成され全13課目の曲技を披露する。
創設は2018年10月と日は浅いが、前身は1990年代後半にまでさかのぼる。当時、教官の技量向上を目的とした技術研究班が発足。基地内での一般向けのイベントや海上自衛隊の航空学生の入隊式で展示飛行を披露していた。やがて広報として公式に活動できないかという声が上がり、「ホワイトアローズ」発足へとつながった。これまで「山口ゆめ花博」(注1)や「レッドブル・エアレース」(注2)など、外部でも展示飛行を行っている。
(注1)2018年に「やまぐち未来維新」の中核イベントとして開催された都市の緑化を推進する花のイベント
(注2)レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ。プロペラ機で障害物をクリアしながらタイムを競う国際航空連盟公認のエアレースシリーズの総称
ホワイトアローズのメンバーになるためには
「ホワイトアローズ」のメンバーは18人。4機にそれぞれ機長と副操縦士が各1人、計8人が搭乗し演技を行う。
メンバーになるには、まず「ホワイトアローズ」の副操縦士資格を得る必要がある。シミュレーターでの慣熟飛行、編隊飛行など所定の訓練を受けた後に、検定に合格すれば資格が与えられる。さらに「ホワイトアローズ」の機長の資格を得るには所定の飛行訓練後に同様に合格する必要がある。機長資格保有者は、メンバーの養成訓練を実施する「ホワイトアローズ」教官の検定を受けられる。
「ホワイトアローズ」の活動は教官としての本来任務の合間をぬって行われるためメンバー構成は流動的だ。メンバーは週に1回は訓練を行うようにしている。機体の性能をギリギリまで引き出しても安定した演技ができるよう、訓練は欠かせないのだ。
ホワイトアローズパイロット紹介
※2020年12月時点でのメンバー
【1番機 編隊長 3等海佐 神代貴之】
福岡県出身。前P-3Cパイロット。趣味はバイクだが故障も多く、整備時間のほうが長くなっているとのこと。
「見てほしい展示飛行は全部です! コロナ禍で展示飛行をする機会が減りましたが、訓練は万全です。収束したらぜひ見に来てください」
【4番機 3等海佐 山下幸多】
鹿児島県出身。前P-3Cパイロット。小月航空基地の前は地方協力本部で勤務をしていた。
「小回りが利き、観客に近い距離で演技をするので、肉眼で追いかけられます。機体の性能を限界まで引き出した私たちの展示飛行を見てください」
【1番機 編隊長 3等海佐 市川芳征】
千葉県出身。前P-3Cパイロット。発足時からのメンバー。最近、趣味で革細工を始めた。
「戦闘機と比べ速度や機動性はないですが、皆さんに近い所で展示ができます。パイロットが手を振る姿も見つけてください」
【1番機 3等海佐 白石真規】
福岡県出身。前P-3Cパイロット。展示飛行では演技タイミングの指示を出す号令係を務める
「私が各機に合図でかける号令のタイミングが演技の成否に大きく影響します。一糸乱れぬ演技が成功したら盛大な拍手をお願いします!」
【1番機 3等海佐 藤原彰彦】
岡山県出身。前P-3Cパイロット。休日は家族と一緒に近場で山登りを楽しんでいる。
「1番機を先頭に飛行するダイヤモンド隊形の美しさをぜひご覧ください。海上自衛隊の航空部隊に興味を持ってもらえたらうれしいです」
【1番機 1等海尉 中村聖也】
青森県出身。前P-3Cパイロット。今は、7歳と4歳の子どもとの公園遊びが何よりの楽しみ。
「編隊長へアドバイスしたり、安全を確保しながら僚機との円滑な連携を保ちながら行う演技を心掛けています。基地祭や入隊式で会いましょう!」
【2番機 3等海佐 山下朝陽】
長崎県出身。前P-3Cパイロット。毎日の通勤はランニング。体調と健康管理に努めている。
「先輩方から受け継がれてきた操縦技術を習得し、次世代に伝承することにやりがいを感じます。私たちの演技を見に基地祭に来てください!」
【2番機 1等海尉 嶋田雄一】
熊本県出身。前P-3Cパイロット。マラソン好き。念願がかない「ホワイトアローズ」に。
「『ホワイトアローズ』の皆の気持ちが1つになった編隊飛行を見てほしいです。私たちも心地よい緊張感を持って飛んでいます」
【2番機 3等海佐 村山晃一】
静岡県出身。前US-2救難飛行艇パイロット。アウトドアが趣味で狩猟も始めた。
「4機のT-5が編隊で行う角度の深い旋回飛行からの切り返しなど、高度な技が決まったときは、私たちも気分爽快です」
【2番機 3等海佐 池田 圭】
宮崎県出身。前P-3Cパイロット。夏場はコックピット内が高温で大量の汗に悩まされている。
「『ホワイトアローズ』の名前だけでも覚えてください。興味を持ってもらえたら、小月航空基地でのアクロバット飛行を見てほしいです」
【3番機 3等海佐 城 友和】
熊本県出身。前US-1A救難飛行艇パイロット。休日はバレーボールクラブのお手伝い。
「アクロバット飛行中でも操縦席からお客さんの顔はよく見えています。皆さんもパイロットの姿を肉眼で見て距離の近さを実感してくださいね」
【3番機 3等海佐 杉山利晃】
青森県出身。前US-2救難飛行艇パイロット。キャンプ好きで山口県のキャンプ場をほぼ制覇。
「部隊の主役は学生ですが、『ホワイトアローズ』の演技は教官が主役です。4機のT-5が見せる力強い展示飛行を楽しんでください」
【3番機 3等海佐 村田哲也】
長崎県出身。前EP-3パイロット。釣りを始めた。海自広報に貢献できるのがうれしい。
「小回りのきいたダイナミックな演技は、大型機にはできません。T-5の持つ運動性能の極限に挑戦する私たちの姿を見てください」
【3番機 3等海佐 矢山剛市】
宮崎県出身。前P-3Cパイロット。休日は子どもと一緒に過ごし、釣りやゴルフもする。
「演技の序盤の編隊で会場前を通過するファン・ブレイクが見どころです。小型プロペラ機ならではの小回りのきいた演技を見てください」
【3番機 1等海尉 井上智晴】
宮崎県出身。前P-3Cパイロット。子どものころから飛行機好き。ドライブと温泉巡りが趣味。
「乗り物酔いしやすい体質ですが、機動の際にかかる体重の2倍の重力に負けずに頑張ってます! 小月航空基地に遊びに来てください」
【3番機 1等海尉 岸川勝治】
福岡県出身。前EP-3パイロット。趣味はゴルフ。展示飛行を見た人からの声援が励み。
「一糸乱れぬ隊形は見た目以上に繊細なコントロールが必要です。風に対してパイロットが修正する、細かな操縦技も見てください」
【4番機 3等海佐 濁川正志】
神奈川県出身。前EP-3パイロット。休日は、日ごろできないマラソンなどで体力錬成を行う。
「海上自衛隊といえば艦艇というイメージですが、「ホワイトアローズ」の活動を見て航空部隊にも注目してもらえるとうれしいです」
【4番機 1等海尉 松永翔也】
鹿児島県出身。前P-3Cパイロット。休日は読書や音楽鑑賞などをして穏やかに過ごす。
「4番機にはソロ飛行の演目もあります。会場後方から進入する演目が、4番機の見どころなのでお見逃しなく。ぜひ注目してください」
(MAMOR2021年3月号)
<文/古里学 写真/長尾浩之>