•  ロシアのウクライナ侵攻が始まって以降、テレビなどの報道番組で「防衛研究所」の研究者がコメントをする姿を見かけた人も多いだろう。防衛研究所は防衛省のシンクタンクなのだが、その全容はあまり知られていない。

     そこで、2022年8月に創立70周年を迎える、今注目の防衛研究所を紹介しよう。

    日本で唯一の安全保障に関する学術研究所

    画像: 洗練された雰囲気の防衛研究所エントランス。この奥では日々、研究者たちが安全保障に関する最新の学術研究に励んでいる

    洗練された雰囲気の防衛研究所エントランス。この奥では日々、研究者たちが安全保障に関する最新の学術研究に励んでいる

     防衛研究所は、防衛省組織令に定められた機関で、正式名称は「防衛省防衛研究所」だが、略して「防研」と呼ばれることも多い(以下防研と記す)。

     防衛省の内部にある、わが国唯一の国立の安全保障に関する学術研究・教育機関で、主な任務は「安全保障に関する調査研究」と「戦史に関する調査研究」、「防衛省・自衛隊の幹部および他省庁の職員などへの教育」の3つだ。そのほかに、戦史史料の管理・公開も行っている。

     組織は、安全保障政策、法制、戦略理論、国際関係および地域情勢、さらには宇宙やサイバー分野まで多岐にわたる研究を行う「研究部」、戦史に関する調査研究および戦史の編さんを行う「戦史研究センター」、幹部自衛官や、幹部職員などへの安全保障に関する教育を行う「教育部」などから成る。また、戦史史料などを置く「史料閲覧室」があり、こちらは事前に電話で予約をすれば、一般の人も入室、閲覧することができる。

    画像: 防研は、防衛省本省庁舎のある市ケ谷地区の一画にあり、日本の安全保障政策において大きな役割を果たし、揺るぎない地位を確立している

    防研は、防衛省本省庁舎のある市ケ谷地区の一画にあり、日本の安全保障政策において大きな役割を果たし、揺るぎない地位を確立している

     防研による研究成果は、防衛大臣、副大臣、政務官、国会議員、防衛省の内部部局、陸・海・空各自衛隊、他省庁の幹部などに適時適切に説明されており、防衛政策の立案に寄与するほか、『東アジア戦略概観』、『ウクライナ戦争の衝撃』、『中国安全保障レポート』、『安全保障戦略研究』、『戦史研究年報』などの刊行物(いずれも防研ホームページの「出版物」より読むことができる)として、広く内外に提供されている。

     加えて防研ホームページでは、国内外の安全保障に関する論評・解説もタイムリーに公開している。このように防研が積極的に情報発信を行う目的の1つは、学術的な基盤強化に貢献するとともに、社会一般の幅広い議論を活性化すること。もう1つは、特に海外の研究者に情報が行き届くことで、客観的・建設的な議論の活発化につながり、相互理解と信頼関係を深めることに役立つことだ。

     現在、防研には、さまざまな分野に精通した研究者が約90人在籍しており、そうした専門家が一堂に会していることで、広く深みのある分析ができるのが大きな特徴といえる。

     また、研究者らは、国際会議や研究会をはじめ、世界中の研究者や国防関係者とも頻繁に意見交換をしているため、専門家としての知見も日々磨かれている。「安全保障のシンクタンク」と呼ばれるゆえんはここにあるのだろう。

    国際的な評価も高い防研の情報発信

    画像: 「安全保障国際シンポジウム」では、一般の人も参加できるオープンな場に諸外国の著名な有識者を招き、意見発表・交換を行っている

    「安全保障国際シンポジウム」では、一般の人も参加できるオープンな場に諸外国の著名な有識者を招き、意見発表・交換を行っている

     防研の歴史をさかのぼると、1952年に「保安庁保安研修所」として発足したのが始まりだ。防衛庁(当時)の前身である保安庁の発足が52年だから、防衛庁(省)と同じ歴史を持っていることになる。

     防衛庁の発足とともに、名称が「防衛庁防衛研修所」に変更。所在地は東京都江東区越中島だったが、その後、中野区の警察大学校内、霞ヶ関、目黒と移り、85年に「防衛庁防衛研究所」に改称された。さらに2007年、防衛庁が防衛省に移行するのに合わせ、「防衛省防衛研究所」となり、16年、現在の市ケ谷へと移転した。

     70年の歴史の中で、防衛・安全保障のシンクタンクとしての評価は高まり、アメリカ・ペンシルベニア大学TTCSP(世界有力シンクタンク評価)が発表する「2020世界シンクタンク報告」の防衛・安全保障部門ランキングにおいて、全110機関のうち2年連続で第9位、アジアでは最高位に選ばれている。

     ロシアのウクライナ侵攻に関する研究者のコメントで、その名が広く国民に知れ渡ったが、国際的な評価も高い防研の情報発信には、今後も目と耳を傾けたい。

    防衛研究所の役割とは? 所長に聞いた

    防衛研究所の代表として、2021年9月の着任以降、常に先頭に立ってさまざまな手段で積極的に情報発信を行っている

    【防衛研究所所長 齋藤雅一】

    「わが国唯一の国立の安全保障に関する学術研究機関として、安全保障上の研究成果を国民の皆さまにお伝えすることは、われわれの責務と考えております。

     最近、ウクライナ情勢をめぐってメディアに出演する機会が多くなっていますが、その情勢分析、情報発信能力が高いとの評価の声をいただいております。同様に、ほかの地域・分野の研究者においても高い能力を備えていると自信をもっております。

     若いマモル読者でも気軽に情報を受け取れるように、ユーチューブやツイッターなどのSNSを含むさまざまな手段を通じ、タイムリーで分かりやすい情報発信に取り組んでいます」

    研究者の代表として教育、国際交流などについて所長を補佐。専門分野は戦略論、同盟研究、平和構築など

    【防衛研究所研究幹事 吉﨑知典】

    「防研は安全保障の研究機関としては、国内最大級で研究者の層も厚いです。また、防研の研究者は教育者でもあり、さらに国際会議や研究会などで多くのプレゼンをこなしているので、分かりやすく説明することに長けています」

    防衛研究所による刊行物

    『中国安全保障レポート2022』

    中国の安全保障政策や戦略的および軍事動向について、中長期的な視点から分析し、国内外に発信する研究報告書。日本語版と英語版のほかに、中国語版もある。

    『東アジア戦略概観2022』

    発売元:インターブックス 価格1650円(本体1500円+税)

    東アジア地域の戦略環境や安全保障上の課題を分析。日本語版(市販)と英語版(近日刊行予定)がある。

    『ウクライナ戦争の衝撃』

    発売元:インターブックス 価格1210円(本体1100円+税)

    ロシアによるウクライナ侵攻を受け『東アジア戦略概観2022』の別冊として急きょ刊行(市販)。

    (MAMOR2022年9月号)

    <取材・文/MAMOR編集部 写真提供/防衛省>

    防衛研究所を研究してみた

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