•  最近、われわれが耳にする報道には、聞き慣れない「ミサイル」が増えている。北朝鮮の列車や海中から発射されるミサイル、ロシアがウクライナ侵攻で使用した新型ミサイル、それに対抗するアメリカ軍から供与された対戦車ミサイルなどなど。

     ミサイルに厳密な定義はないとされているのだが、本特集では自衛隊がミサイルを「誘導弾」と呼ぶことから、目標に向かって誘導され、自身の持つ推進装置で飛んでいく兵器、と定義する。そのミサイルの歴史から仕組み、そして各国のミサイル最新事情まで、ミサイルの基礎知識について、その道の専門家に講師となり解説してもらった。

    歴史:元祖は、第2次世界大戦に登場

     ミサイルは、誘導制御機構を持つ点で、ほかの兵器と大きく違う。誘導制御機構があることで、狙った所に飛んでいき、命中させることが期待できるのだ。

     ミサイルの歴史を振り返ると、第2次世界大戦中にさかのぼる。このときドイツが開発・使用した「V1飛行爆弾」と「V2ロケット」が始まりといえるだろう。前者はいわゆる巡航ミサイルの元祖で、簡素なエンジンを持ち、発射後自ら方向と高度を調整しながら飛び、設定された飛行距離に到達するとエンジンを停止して目標に突入する。

     後者は弾道ミサイルの元祖で、ロケットの先に約1トンの炸薬を詰めた弾頭を搭載。原始的な誘導システム(注)を持っているが、現代のミサイルのように、特定の目標に命中させられる精度はない。V1飛行爆弾は第2次世界大戦が終わるまでに2万4200発、V2ロケットは3500機が発射されたといわれている。つまり、ミサイルによる世界初の攻撃は、70年以上も前に行われていたのだ。

    注:方位の測定装置「ジャイロスコープ」と、真空管を利用したアナログコンピュータを組み合わせ、ミサイルの姿勢制御を行う

    発射方法:2タイプの「発射機」で撃ち出される

    画像: 艦艇に搭載された筒タイプの発射機から撃ち出されるシー・スパロー。旋回式なので角度、方向を変えられる

    艦艇に搭載された筒タイプの発射機から撃ち出されるシー・スパロー。旋回式なので角度、方向を変えられる

     ミサイルは、それ単体で発射することができないため、何らかの「発射機」によって撃ち出される。ミサイルを発射する機構は、おおむね「筒」か「レール」のどちらかだ。

    画像: 車両に搭載された筒タイプの発射機から撃ち出される12式地対艦誘導弾

    車両に搭載された筒タイプの発射機から撃ち出される12式地対艦誘導弾

     筒タイプは、円筒形もしくは四角い箱形をしていて、ミサイルの弾体を内包しているもの。車両や艦艇に搭載される発射機は主に、この筒タイプになる。

     一方、レールタイプは、戦闘機の胴体や翼の下に付いているものに代表される、弾体をレールに装着しておく形状のもので、主に航空機向けの発射機がそれだ。

    画像: F-2の胴体や翼の下にも、レールタイプの発射機にミサイルが装着されている

    F-2の胴体や翼の下にも、レールタイプの発射機にミサイルが装着されている

     またミサイルは、それを発射する場所、すなわちプラットフォームもさまざまで、ウクライナ軍が使用して話題の「ジャベリン」対戦車ミサイルのように個人携帯用もあれば、車両、艦艇、潜水艦、航空機、さらには砲台のような地上に固定された施設、弾道ミサイルなどは鉄道車両から発射されることもある。発射機の形状は、そうしたプラットフォームやミサイルの特性に応じて選ばれているのだ。

    分類:発射するプラットフォームと目標の組み合わせで分類する

    画像: 分類:発射するプラットフォームと目標の組み合わせで分類する

     世界には多種多様なミサイルがあるが、大まかに「目標となるもの」と「何から発射するか」によって分類できる。

     目標に関しては、大きく分けて対地・対艦・対空の3つがある。対地ミサイルは、敵陣地などの拠点や装甲車、戦車などを撃破するためのもの。対艦ミサイルは敵の艦艇を、対空ミサイルは飛来する敵の航空機、またはミサイルなどを攻撃するものだ。

     一方で、人が担ぐもの、地上に設置するもの、車両、艦艇、航空機に搭載するもの、という発射プラットフォーム別の分け方もあり、これら2種類の分け方の組み合わせでミサイルは分類される。

     例えば対空ミサイルにも、個人携帯型、車両搭載型、艦艇搭載型、航空機搭載型があり、プラットフォームによって、地対空、艦対空、空対空ミサイル、などと呼び分けている。こうした目標以外にも、人工衛星をターゲットにした「対衛星ミサイル」や、レーダー波を発する施設を狙い撃ちにし、敵の「目」を奪う「対レーダーミサイル」などの変わり種もある。

    飛翔形態:「巡航」と「弾道」では、撃ち上がる高さや飛行経路も違う

    画像: 飛翔形態:「巡航」と「弾道」では、撃ち上がる高さや飛行経路も違う

     ミサイルは敵に向かって一直線に向かっていくもの、と思っている人も多いかもしれないが、実はミサイルは、いろいろな飛び方をする。

     まずは、飛翔形態に特徴のある弾道ミサイルと巡航ミサイルについて説明しよう。大砲から砲弾を撃ち出すように、放物線を描く弾道で飛んでいくのが弾道ミサイルだ。撃ち出す角度と方向、どのくらい加速させるかによって、着弾位置が決まる。飛翔の過程で大気圏外、宇宙空間まで飛んでいくものが多い。

     一方、巡航ミサイルは、有人航空機と同じように大気中を飛ぶ。最近のものは、レーダー探知を避けるため、低空を飛ぶことができる。

     飛翔形態による分類はこの2種類になるのだが、対艦ミサイルなどには、洋上を低空で飛行する「シースキマー」、対艦・対地ミサイルには、探知されづらい低空を飛び、目標に命中する直前で急上昇、艦艇や戦車の弱い上部を攻撃するために逆落としに突入する「トップアタック」、「ハイダイバー」と呼ばれるタイプのミサイルもある。

    【井上孝司】
    軍事研究家。1999年に会社員から著述業に転じ、航空・軍事・鉄道といった分野で著述活動を展開。著書に『最新ミサイルがよ~くわかる本』(秀和システム)などがある

    <文/臼井総理、イラスト/松岡正記>

    (MAMOR2022年8月号)

    世界のミサイル百科事典

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