捜索機U-125AとUH-60J救難ヘリコプター、2機の救難機を連携させ、命がけの任務に臨む百里救難隊。クルーはおのおのの任務に集中し、救難活動をパーフェクトに遂行すべく日々訓練に励んでいる。“ワンチーム”のメンバーたちに、胸に秘めている任務への思いに迫ってみた。
重要なのは『知識・技術・人間性』のバランス

「向上心と探究心を持ち、技量・知識の追求が重要。何でも言い合える関係性作りを地上でも機上でも意識します」と中村3佐
【百里救難隊 UH-60Jパイロット 中村秀樹3等空佐】
いかなる状況下でも適切で安全な飛行をする
48歳のベテランパイロット中村3佐。救難活動のため、険しい山岳地を飛び、ほぼあらゆる地形にアプローチできる屈指の操縦士だ。その彼が“最も難しいのはホバリング、止まること”だと言う。
「救難員の降下時や要救助者のつり上げ時に、その場で静止できないとヘリが木などにぶつかる危険もある。ヘリはその場で停止しているように見えますが、機体は常に風の抵抗を受けています。風向きなども同じではなく、機体の重量で操縦感覚が変わります。静止させるのも、訓練でしか習得できない技術です」

任務の達成には、指揮所との通信や機長の補佐をする副操縦士(左)との連携が大切。訓練ではお互いに息を合わせて急発進や急上昇などを行い、機体の挙動を確認する
訓練では実任務の厳しい状況を想定し、機体の限界に近い動きをすることもあるが、中村3佐は救難隊員に必要なのは技術だけではないと断言する。「車両のシャフトとタイヤの関係と同じです。『知識』と『技術』の両輪が高性能でも『人間性』のシャフトが弱いと成立しない。3つの要素がどれか欠けても、突出していてもダメ。全てが必要でバランスが大切です」と、人間性の充実も重要と話す。
救助に必要な情報は全て集めたい

「飛行中は救難員らが要救助者を捜索しやすくするため、なるべく現場が見やすい、斜めの角度を保ち飛行をします」と木谷2尉
【百里救難隊 U-125A パイロット 木谷将人2等空尉】
捜索救助に必要な情報を先行して収集する
救難捜索の現場にいち早く駆け付け、状況把握に努めるU−125A。「UH−60Jが救難活動を行うときに近い高度を飛び、天候や障害物の有無などを調べ、UH−60Jが最適な救助活動に臨めるように必要な情報を集めます。災害派遣の現場では消防や民間のヘリが飛行していることもある。現場の安全確保に努め、救助活動に支障がないよう現場を飛ぶ航空機の誘導も行います」と木谷2尉。

機首の下にある赤外線暗視装置で、人物などの温度を検知できる。要救助者を発見した際は、写真のように援助物資などを投下する

赤外線暗視装置
パイロットになって大切だと思うのは、“うそ”をつかないことだと話す木谷2尉。
「搭乗員はお互いに命を預けあっているので、逐一報告し合うのが大事。もしも何か間違った操作をしてしまっても、素直に話す。分かったふりをしてしまうと、逆にそれが事故の原因になったりします。分からないことは分からないと正直に言う。円滑に業務を進めていく上ではやはりうそをつかないのが大事で、それは機上でも地上でも一緒だと思います」
成功も失敗も、必ず理由がある
数多くの機種で任務を歴任してきた山㟢曹長。「整備員をはじめ運航を支える隊員への感謝も忘れずに訓練や任務に臨んでいます」
【百里救難隊 U-125A 機上無線員 山㟢雅也空曹長】
関係各所と通信を行う救難捜索の“つなぎ役”
後部座席の一番前にあるモニター付きの座席が機上無線員の定位置。レーダーに映る情報を分析し、要救助者を捜索
現場に到着したU−125Aは現場の状況を正確に把握し、部隊の指揮所に無線で連絡。要救助者捜索の情報を提供する。その連絡役を担うのが通信機器を取り扱う機上無線員だ。救難捜索ではレーダーや赤外線センサーを使い、要救助者の捜索にあたる。
「レーダーの画面を見ながら反射状況を確認し、それが要救助者か判断します。でも天候や地形の影響や電波の状況で、捜索対象を取り巻く環境は毎回変わります。日々の訓練では早期発見できる時もあれば、時間がかかる場合もある。うまくいったりいかなかったり、どちらも必ず理由があります。なぜその現象が起きたのか探求する姿勢が重要です」と話す山㟢曹長。
U-125Aの後方には、要救助者の位置を知らせる信号マーカーや救命浮舟などの援助物資を搭載
機器操作に必要な知識・技能が問われるのは当然と山㟢曹長は考える。だが「ほかのクルーが何を考えどうしたいのかを想像する力が救難の現場では必要だと思います」と技術だけではない一面も話してくれた。
(MAMOR2022年5月号)
<文/守本和宏 写真/赤塚 聡>