•  野外で宿泊するということでは同じでも、一般の人々が行うキャンプと自衛隊が行う野営はまるで別物だ。キャンプはレジャーの1つだが、野営は国を守るために行う作戦行動の1つ。では、実際、自衛隊は任務の中でどのようなときに、どのような目的で野営を行うのか、詳しく解説する。

    自衛隊の野営とは? 任務の流れを解説

    画像: 天幕の設営訓練を行う陸上自衛隊の隊員。訓練や演習で野営することが多い陸自隊員にとって、天幕の設営は必須スキルだ

    天幕の設営訓練を行う陸上自衛隊の隊員。訓練や演習で野営することが多い陸自隊員にとって、天幕の設営は必須スキルだ

    ●月×日▲時までにA地点を攻略せよ――。

     こうした命令が1000人規模の隊員を率いる連隊に下された場合、どのように部隊移動を行うのか。また、移動の途中でどう野営をするのだろうか。計画策定から部隊の行動開始、野営の実施、撤収、作戦実行までの流れを解説しよう。

    1:移動計画の策定

    画像: 陸上自衛隊では、約30キログラムの装備を身に着け、100キロメートルを歩く行軍訓練を行っている

    陸上自衛隊では、約30キログラムの装備を身に着け、100キロメートルを歩く行軍訓練を行っている

    作戦の目的を達成するため事前に綿密に計画

     大規模な部隊の移動には、綿密な事前の計画策定が必要になる。そこで、まずは師団・旅団長から、部隊移動に関する概略が連隊長に提示される。任務を実行する部隊移動の目標となる地点はどこか。その地点までの移動にどのような経路をとるか。どこを野営の拠点とするか。部隊の規模と編成、警戒態勢をどうするか。野営後、任務を実施する行動の開始はいつか……。

     連隊長はこれらの概略を基に、各項目について詳細に計画していく。計画策定にあたっては、移動進路や予想される敵の妨害行動などに関する資料を収集する。

    2:部隊出発・行進

    先遣部隊が先行した後、本隊が行進を開始

     計画が策定されたら、進路偵察班や施設科部隊と、野営候補地の視察や部隊配置の検討などを行う隊員などからなる先遣部隊が先行する。先遣部隊は連隊の部隊移動にとって危険となる場所や障害となる場所に関する情報を収集。道路が陥没しているなど、進路の障害となる箇所がある場合は、施設科部隊が補修を行う。

     先遣部隊から進路に関する情報を入手したら、いよいよ本隊の行動開始だ。部隊が行進するときには、本隊の先頭に前衛、両側面に側衛、背後に後衛として警戒部隊を配置する。こうして敵の地上偵察や奇襲に対して本隊を援護するわけだ。

    3:野営地の決定

    野営に適した条件に基づき宿泊拠点を選定

    画像: 敵の近くで野営する連隊の配置図(イメージ)。外周は普通科中隊が警戒し、全部隊を守るよう配置する。陣の内部では、戦車部隊や重迫撃砲部隊、大砲部隊などは、本部を囲むように配置する

    敵の近くで野営する連隊の配置図(イメージ)。外周は普通科中隊が警戒し、全部隊を守るよう配置する。陣の内部では、戦車部隊や重迫撃砲部隊、大砲部隊などは、本部を囲むように配置する

     目標の地点までに数日を要する部隊移動では、隊員の体力回復や今後の行動の準備のための野営が必須となる。野営の場所やタイミングは、敵との距離や作戦実行までのタイムリミット、隊員たちの疲労度などの諸条件を考慮して決定される。

     場合によっては、野営は各部隊を分散して行うこともある。同じ地域での野営か分散しての野営かの選択にあたっては、先の条件に加え、候補となる野営地の通信に関わる状況や警戒態勢などが考慮される。野営地を決定するのは、基本的には師団・旅団長だが、連隊が独立して行動する場合には、連隊長が判断する。

     では、具体的には、どのような地域が野営地に適しているのだろうか? 最初に挙げられるのが、隊員や車両、施設が分散して野営するのに十分な面積があること。次に、木や草などがあり隠れることができ敵から発見されにくく、攻撃されにくい地形であること。また、移動経路に近く、地盤が固くて車両が出入りしやすい地域であること。

     地域内の道路網が整備されている必要もある。川などの自然物が敵の侵入を防ぎ、警戒しやすいことも条件となる。野営に必要なまきなどの木材や、給水しやすい環境であることも重要だ。

    4:野営開始

    部隊を適切に配置して警戒しながら休息する

     連隊が野営地に到着したら、各部隊は適切な配置につく。例えば、野営地が作戦実行地点と近く敵から攻撃される可能性が高い場合、野営地の四方に対する警戒がしやすく、即座に行動に移すことができるように各部隊が配置される。

     野営地のなかで、進行方向の最前列に配置されるのが前哨だ。前哨は、周辺に配置された外哨や複哨(注)などで構成され敵からの攻撃を警戒する任務に就く。また、偵察を担当する斥候や、見回り役の巡察も含め、野営地付近の警戒を行い、敵の奇襲があった場合はその対応にあたる。

     連隊の本部となる指揮所は、連隊内での指揮や通信がしやすいよう、野営地の中央辺りに配置される。その周辺には警戒を担う部隊を配置。敵が接近してくる経路を想定し、その経路への射撃に適した位置に重迫撃砲部隊などを、経路にすぐに進出できる位置に対戦車部隊など配置する。それらの部隊の内側で、移動経路に近い場所に配置されるのは、施設科部隊や後方支援部隊だ。

     野営中は常時、警戒態勢が敷かれている。野営地内をいくつかのブロックに区切って警戒が行われることはもちろん、敵の戦闘機や戦車、装甲車、遊撃部隊などに対する警戒が行われる。

     だが、野営の最大の目的は隊員たちの戦力回復にある。だから、敵が攻撃してくる可能性や戦力差など、さまざまな情報を精査したうえで、地形などを加味した効率的な部隊配置をし、必要最小限の警戒態勢をとることによって、より多くの隊員たちを休息させることが重要となる。

    (注)外哨は、最も敵に近い位置に配置され見張りを担当する。複哨は、外哨の後方に配置され敵の侵入を防ぐ

    5:撤収・行進再開

    画像: 小銃を構えながら、前進していく隊員。おのおのが各方位を警戒しながら、任務達成に向けて作戦を実行する

    小銃を構えながら、前進していく隊員。おのおのが各方位を警戒しながら、任務達成に向けて作戦を実行する

    痕跡を消して迅速に撤収。作戦地点を目指す

     野営が終了し、部隊移動を再開する際には、その行動を敵から察知されないようにする。夜間に出発する場合にはライトを消して車両を運転するなどの灯火管制を行ったり、通信が傍受されないよう配慮したりする行動が求められる。

     また、野営した痕跡を残さないようにもしなければならない。各部隊が野営地を元どおりに整理するだけでなく、必要であれば清掃班を残して徹底的に痕跡を消す。

     こうして、警戒部隊を先頭にして行進が再開される。食事と休息をとり、体力を回復した隊員たちは、攻略地であるA地点を目指す。

    (MAMOR2022年5月号)

    <文/魚本拓>

    自衛隊式キャンプ入門

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