•  水中で爆発する兵器の総称を水雷と呼び、水深など一定の条件で爆発する「爆雷」、動力装置で水中を進み、目標物に当たると爆発する「魚雷(魚形水雷)」と「機雷(機械水雷)」に分けられる。このうち機雷は水中に敷設され、艦船が接近または接触すると、自動または遠隔操作で作動する兵器だ。

     機雷はその性能が年々進化し、探知も難しくなっているという。掃海艦『ひらど』をモデルに、自衛隊の掃海部隊がどのように機雷を処分していくのか説明しよう。

    最新の装備で精度の高い機雷探索が可能に

    「機雷の捜索は、最新の海底無人探査機(OZZ-2)によりより深い位置の機雷も発見しやすくなり、効率が格段に向上しました」と川下3佐

     第1掃海隊に編入され、横須賀に配備された掃海艦『ひらど』は、2018年3月に就役した新しい掃海艦だ。艦長の川下雄司3等海佐に機雷処理の任務について伺った。

    画像: 2017年6月に海上自衛隊が実施した実機雷処分訓練で、安全な距離を保ちながら掃討を行う掃海艇『はつしま』

    2017年6月に海上自衛隊が実施した実機雷処分訓練で、安全な距離を保ちながら掃討を行う掃海艇『はつしま』

    「機雷処理は、機雷をソナーで個別に発見して爆破する『掃討』と、機雷をつなぐワイヤを切断し、水面に浮上後に機銃などで射撃し爆破する『係維掃海』、装備を使い擬似的に船舶がいるように装い、機雷を爆発させる『感応掃海』といった方法で処理します。掃討の場合、機雷を発見したらEMD(自走式機雷処分用弾薬)を機雷に圧着させて発火させる方法で処分をします」

    掃討:見つけた機雷を1つずつ確実に処分する

    画像1: 掃討:見つけた機雷を1つずつ確実に処分する

    【掃海艦『ひらど』】
    機雷から自艦を防御する装備として、非磁性のFRPが使用されているほか、船体が帯びている磁気を消す消磁装置を装備。船体から発生する雑音を低減するため、艦内の各所に防音材が使用され、機雷掃討・掃海任務時は、機関をディーゼルエンジンから電気推進に切り替える。

    画像: 海底の地形が複雑な場所など、機雷処分用の弾薬による掃討が難しい場合は、水中処分員が潜水し、機雷を処分する

    海底の地形が複雑な場所など、機雷処分用の弾薬による掃討が難しい場合は、水中処分員が潜水し、機雷を処分する

     深いところにある機雷をソナーなどを使用して探知、位置特定、識別を行い、機雷処分用弾薬などで処分する。水中処分員が機雷処理の作業を行うこともある。

    画像2: 掃討:見つけた機雷を1つずつ確実に処分する

     彼我に別れた部隊の一方が訓練用の沈底感応機雷を敷設し、それをもう一方の部隊が捜索し掃討をするという実戦形式の訓練も行われる。

    掃討に使用する主な装備

    海底無人探査機(OZZ-2)

    画像: 海底無人探査機(OZZ-2)

     モーターで駆動し、プログラミングされた海域の、海底地形や海に沈む物体を超音波を使って探索できる。

    光学式監視装置

    画像: 光学式監視装置

     レーザー光を照射し、その反射を高感度カメラで捉え、肉眼では発見することが難しい水面上の目標を探索する。

    自走式機雷処分用弾薬(EMD)

    画像: 自走式機雷処分用弾薬(EMD)

     カメラやソナーを搭載し、目標近辺まで近づき、最後は手動で発火させる使い切りタイプの弾薬。※写真は訓練用。

    掃海艦ソナーシステム(けん引部)

    画像: 掃海艦ソナーシステム(けん引部)

     水中に音波を発信し、その反射音から目標の位置を計測するソナーを任意の深度まで沈めるためのけん引用のワイヤ部。

    係維掃海:機雷のケーブルを切り離し射撃などで爆発させる

    画像: 係維掃海:機雷のケーブルを切り離し射撃などで爆発させる

     掃海艦からはえなわ漁船のように海中にケーブルを流し、そのケーブルに取り付けられたカッターによって機雷をつなぎ留めているワイヤを切断する。浮き上がってきた機雷は、機銃などで射撃をして爆破処理する。住宅が近い沿岸部など機雷が敷設された場所によっては、カッターを使用せずに引っかけ、機雷を危険のない海域に移動させることもある

    感応掃海:擬似的に艦船がいるように装い爆発させて処理する

    画像: 感応掃海:擬似的に艦船がいるように装い爆発させて処理する

     感応機雷の処理は、機雷が何に対して反応をするのかによって方法が異なる。音響機雷に対しては音響装置、磁気機雷に対しては掃海艦から電線を海に投じて電流を流し、擬似的に船舶が航行しているかのような状況を作る。機雷にそれを艦艇と誤認させ、爆発させて処理する。

    係維・感応掃海に使用する主な装備

    フロート

    画像: フロート

     掃海作業で海に流したワイヤの後端位置を示すために使われる浮き。以前は金属製だったが、磁気の影響を避けるためFRP製になっている。

    20mm遠隔管制砲

    画像: 20mm遠隔管制砲

     係維掃海後に機雷を撃って処分することもある。レーザーで距離を測る光学式照準装置と組み合わせて遠隔操作による射撃が可能になっている。

    水中発音体

    画像: 水中発音体

     船舶のスクリュー音に類似した音波を発し、音響に反応する機雷処分に用いる。音波はエンジン音など複数のパターンを出せる。

    磁気掃海電線

    画像: 磁気掃海電線

     海中に電流を流して磁界を発生させ、磁気に反応する機雷を処理するための電線。大型の船舶と機雷に誤認させるため、長さは数百メートルに達する。

    最新の機雷に対応する最新鋭の掃海技術

     年々、機雷の性能が上がるたびに掃海に使用する装備品も新しい機雷に合わせて新しくなる。新しい掃海艦である『ひらど』には最新鋭の装備品が搭載されているが、任務の複雑さも増すという。掃海長を務める岩崎泰光1等海尉に話を聞いてみた。

    「特に音や磁気などに反応する感応機雷はステルス性が高く、見つけにくい機雷が増えています。自分で動き回る自走式の機雷や、岩の形に擬装した機雷もあります。掃海用の装備品が出す磁気信号に騙されない、高機能な機雷も存在します。

     このような最新の機雷に対応するのは最新の技術しかありません。私たち掃海に携わる者は最新の知識と技術を磨き、努力を怠ることなく、真摯に任務と向き合わなければいけないと実感しています」

    伝統的お家芸、自衛隊の「掃海」

    <文/鈴木千春(株式会社ぷれす) 写真/尾﨑たまき>

    (MAMOR2019年9月号)

    This article is a sponsored article by
    ''.