• 画像: 2021年8月、自衛隊は沖縄南方海空域でアメリカ主催の「大規模広域訓練2021」に参加。この訓練を通じ、FOIPのビジョンを共有する国々との結束を深めた。写真は、訓練に参加したアメリカ、イギリス、日本、オランダ各国の艦艇

    2021年8月、自衛隊は沖縄南方海空域でアメリカ主催の「大規模広域訓練2021」に参加。この訓練を通じ、FOIPのビジョンを共有する国々との結束を深めた。写真は、訓練に参加したアメリカ、イギリス、日本、オランダ各国の艦艇

     日本の平和は、世界各国間の外交や軍事による勢力争いなど、刻々と変化する国際情勢に大きく影響される。そのため、それを守るには、関係諸国の動きを正しく読み解き、適切に対処する必要がある。私たちも日ごろから理解に努めようと思っているが、複雑化する現代の国際状況を理解するのは、なかなか難しいものだ。

     そこでマモルは、「地図なら、スマートフォンの操作のように世界を直観的に理解できる」と考え、日本の防衛を読み解くためのマップをまとめた地図帳を作ってみた。

    「自由で開かれたインド太平洋」とは?

     日本が提唱する外交ビジョン「自由で開かれたインド太平洋」。近年、よく耳にするが、今ひとつ理解しにくい、という読者もおられよう。そこで、その重要性が、一目で分かる地図を用意した。世界の平和と繁栄を確保していくために、なくてはならない考えであることが理解できるだろう。

    人口や海上輸送の要所が集まる重要地域で国際協力に貢献

    P-3C哨戒機の搭乗員は、アデン湾を航行する船舶の安全を確保するため、異常の有無を確認し、空から洋上の船舶の護衛を行っている

     地理的にインド太平洋地域には日本、南北アメリカ、太平洋島しょ国、東南アジア、オセアニア、南アジア、中東・アフリカが位置し、ここに全世界の人口の約半数が集中している。また日本で消費する原油のほとんどを依存している中東や、ヨーロッパ、アフリカから、日本やアジア諸国への海上輸送のための交通路は、インド洋から南アジア、南西諸島など太平洋の西側を通っている。そのためこの地域の安定が、日本をはじめとする各国のエネルギーの供給や経済活動のためには欠かせない。

     このような背景のもと、日米同盟を中心に同じ価値観や安全保障上の利益を共有する各国が、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」というビジョンの下、緊密な連携を図っている。

     FOIPは、2016年8月にアフリカ開発会議において当時の安倍総理が、日本は太平洋とインド洋、アジアとアフリカの合流点を、自由と法が支配し市場経済を重んじる場所に育て繫栄させると提唱したことをきっかけに生まれた外交方針だ。この地域を自由で開かれた「国際公共財」としてとらえ、法の支配の下での自由な航行による地域全体の平和と繁栄の確保を目指している。

     しかし、各国がFOIPの維持・強化に取り組む一方で、中国による南沙諸島・西沙諸島を含む南シナ海での領有権主張など、この地域での安定を乱すような軍事活動や一方的な領有を主張する国々も存在する。そのため防衛省・自衛隊では、各国の実情に合わせて、防衛協力や各種交流など多様な方法で関係強化を図っている。

    シーレーンの安全確保のための自衛隊による情報収集活動

    画像: 派遣海賊対処行動航空隊はジブチ国際空港に活動拠点をおく

    派遣海賊対処行動航空隊はジブチ国際空港に活動拠点をおく

     日本の原油の9割は中東地域に依存している。そのため原油を運ぶタンカーの通り道であるシーレーンは日本経済の生命線と言っても過言ではないが、クウェートやバーレーンなどの産油国からインド洋に出るホルムズ海峡やスエズ運河の出口に当たるアデン湾付近は艦船への反政府武装組織などによる攻撃や海賊行為が後を絶たない。

     そのため民間船舶の航行安全対策の一環として、2009年に施行された海賊対処法に基づき自衛隊は派遣海賊対処行動水上部隊を派遣している。現在はオマーン湾、アラビア海、アデン湾の3つの海域の公海、排他的経済水域において護衛艦1隻、ジブチにある自衛隊航空機部隊よりP−3C哨戒機2機が警戒監視・情報収集活動に従事している。

    「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」における防衛省・自衛隊の取り組み

     FOIPの維持・強化に向け、防衛省・自衛隊では関係各国と協力し、地域の平和と安定に貢献するためのさまざまな取り組みを行っている。対話や交流、共同訓練・演習のほか、能力構築支援、防衛装備、技術協力などといった具体的な取り組み例を紹介しよう。

    中東・アフリカ:各国に自衛隊の艦艇、航空機が寄港・寄航

     オマーン、UAE、サウジアラビア、バーレーンへの自衛隊の艦艇、航空機の寄港や寄航。2017年1月からジブチ軍に対して災害対処能力強化のための能力構築支援を実施。

    東南アジア:フィリピンへ不用装備品の無償譲渡など

     東南アジア各国との親善・共同訓練や能力構築支援も継続的に行っている。また2017年3月よりフィリピンへのTC-90練習機の移転など、不用装備品などの無償譲渡も実施。

    南アジア:スリランカ軍に救難活動に関するセミナーなどを実施

     2018年4月よりスリランカ軍に対し捜索救難、航空救難に関する能力構築支援を実施したほか、スリランカ、パキスタン、モルディブ、バングラデシュには、自衛隊の艦艇や航空機が寄港、寄航している。

    太平洋島しょ国:パプアニューギニアの軍楽隊への技術指導など

     2015年以降、空自がミクロネシア連邦などにおいて人道支援・災害救援共同訓練を実施しているほか、15年以降、パプアニューギニア軍の軍楽隊隊員に対し、音楽理論や演奏技術など軍楽隊を育成する能力構築支援を行った。

    イギリス:複数の国の軍による共同訓練を実施

     日英共同訓練や、日本、フランス、アメリカ、オーストラリア、インドによる共同訓練をインド洋で実施した。

    インド:多国間での共同訓練や、初の外務・防衛閣僚会合を開催

     2020年の日本、アメリカ、オーストラリア、インドによる共同訓練や18年10月、19年10月に日本との共同訓練をフィリピン海などで実施。インドとは初の外務・防衛閣僚会合を19年11月に開催した。

    オーストラリア・ニュージーランド:インド太平洋方面で共同訓練を実施

     オーストラリア主催の東ティモールに対する能力構築支援活動に参加したほか、2015年からはオーストラリア軍、19年にはニュージーランド軍も加わったグアム周辺での軍事共同訓練を実施した。

    アメリカ:インド太平洋方面で共同訓練を実施

     2019年3月に日米連携によりベトナムに対して潜水医学の能力構築支援の実施。継続的なインド太平洋方面派遣訓練の一環として日米共同訓練の実施。

    ※本特集内の地図は全て、概念を示すためのイメージ図です。地図上の範囲や航路、配置などは実際の正確なものではありません。

    (MAMOR2021年11月号)

    <文/古里学 写真提供/防衛省>

    マモル・アトラス

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