• 画像: 輸送学校の敷地内には、陸自ヘリや写真奥の鉄道コンテナ貨車のほか、空自輸送機(写真手前)や、海自輸送艦といったさまざまな手段を想定した積載・卸下の実習場がある

    輸送学校の敷地内には、陸自ヘリや写真奥の鉄道コンテナ貨車のほか、空自輸送機(写真手前)や、海自輸送艦といったさまざまな手段を想定した積載・卸下の実習場がある

     島しょ部防衛強化のため、2024年を目標に陸上自衛隊と海上自衛隊の共同部隊である海上輸送部隊が新編されることになった。海上自衛隊に要員配置され、艦船を運用する輸送科の任務は、統合運用や災害派遣、国際貢献活動への参加が増えるにつれ活動領域が飛躍的に拡大している。それに伴い、民間、他国との交渉、調整も必須業務になってきた。新たな時代の輸送科隊員を育成する、輸送学校に求められるものは何か。

    時代とともに大きく進化する新しい輸送科の業務と教育

    陸上自衛隊輸送学校第35代校長・源陸将補。「さまざまな条件に柔軟に対応できる輸送が求められる。輸送の統制能力がいっそう重要になってきています」

     陸上自衛隊輸送学校の前身は保安隊業務学校第2分校で、1954年に陸上自衛隊輸送学校として独立。創設から67年たった今、輸送任務はかつてと比較して質・量とも大きく進化していると、学校長の源弘紀陸将補は話す。

    「PKOをはじめとする自衛隊の国際貢献活動への参加により、輸送任務が全世界を対象とするようになりました。また国内においても、島しょ部防衛の重要性から陸・海・空各自衛隊の統合輸送の運用と統制が必要となっています。東日本大震災以降は船舶輸送の重要性が増すとともに、緊急時に直ちに船舶輸送力を確保するため、「PFI(注)」方式による民間船舶常時確保の制度も立ち上がっている。そうした時代の動きの中で輸送学校も変わっていかざるを得ません」

     現在輸送科では「Triple S/T」という将来ビジョンを掲げている。これは「Smart」(システム化、自動化された輸送管理)、「Smooth」(部内外輸送との円滑な連携)、「Strong」(強靭な輸送力保持の推進、実現)と「Transportation」(輸送)を組み合わせたスローガンで、輸送学校でもこのビジョンを教育や研究に反映し、未来の輸送を担う人材を育てていきたいと源陸将補は言う。

    (注)PFI(Private Finance Initiative)は、公共サービスを提供するときに民間の資産や施設などを活用する制度。自衛隊では、2隻の民間フェリーと契約し、有事の際は自衛隊が優先的に使用できる

    「輸送必着」の使命感と困難を克服する精神力の育成

     このような輸送任務をめぐる状況において、現在の輸送科隊員に求められる能力は、ただ単に陸上、海上、航空などのルートを使って人や物を移動させる力だけではないと、源陸将補は説明する。

    「現場で輸送を実行する業務能力と、司令部などで輸送を統制する統制能力、輸送科隊員にはこの2つが要求されます」

     輸送学校での隊員への教育内容は多岐にわたる。重量がある上に危険物も多い装備品を積み降ろしし運搬する輸送の実行に関しては、高度な操縦技術、走行中の敵への対処、特殊な輸送に応じた法的な手続きなどを習得しなければならない。また輸送端末地といわれる空港や港湾、ターミナル駅などの中継地点での調整、現場での統制、各種の手続き、交渉なども学んでおく必要がある。こうした実行以前の輸送計画の立案や、輸送態勢を整えることも輸送科隊員の重要な任務だ。関係各所との交渉、調整などの際、発揮しなくてはならない業務能力、海外派遣の場合必要とされる英語力なども不可欠となる。

     状況がどんどん変化し、陸・海・空の領域を超えた統合運用も一般的になっている輸送の世界。そうした中でも輸送科隊員に求められるのは、いかなる場合でも必ず届ける、という「輸送必着」の精神だと源陸将補は語る。

    「輸送は部隊のあらゆる行動に付随して起こることであり、輸送がうまくいかないと、現場の任務、目的が達成できません。そのため輸送部隊は、気象や地形、敵などのあらゆる困難な状況を克服して、任務を完遂しなければなりません。さらに作戦や部隊のニーズに応えるためには、裏方に徹して献身的に任務を遂行する姿勢が求められます。それができる強靭な使命感と精神力を兼ね備えた輸送隊員を、われわれはこれからも育てていきます」

    (MAMOR2021年10月号)

    <文/古里学 撮影/荒井健 写真提供/防衛省>

    陸上自衛隊、海ゆかば

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