•  偵察という任務は諸外国の軍隊においていつごろから生まれ、どのように発展してきたのだろう。また、その中でオートバイはどのように活用されてきたのだろうか。海外での取材経験が豊富な軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏に話を聞いた。

    馬から始まった偵察任務。オートバイの有用性に再注目

    画像: 撮影/楠堂亜希

    撮影/楠堂亜希

     各国軍隊において偵察部隊はどのような経緯で生まれ、発展したのだろうか。

    「近代軍隊における偵察部隊のルーツは、騎兵にあると考えられます。古代から、敵情を見るのに歩くより速いという意味で馬が使われだしたようです。偵察行為には昔から機動力が重要だったんです。日本でも戦国時代から早馬など、偵察や伝令といった用途で馬が使われていましたよね。やがて第1次世界大戦になると、戦車と騎兵が一緒に行動するようになる。これが現代の偵察部隊の原形ともいえるもので、機動力の高い者同士が組み合わされるのは自然な流れだったのです。自衛隊の偵察隊が機甲科なのもこのあたりにルーツがあります」と菊池氏は話す。

    「その後、馬から自転車を経て、第2次世界大戦のころにはヨーロッパでオートバイが使われるようになります。徐々に戦術も変化していき、最初はただ敵をのぞき見るだけでしたが、どうせ見えているなら狙撃してやろう、とスナイパーが組み込まれることもありました。そこから、あえて敵がいそうな所に攻撃を加えて反応を見るという、威力偵察の概念が生まれたんです。

     攻撃すると当然相手も反撃してきますから、戦車も連れて行くようになる。ところが戦車は目立つし機動性は低い。そこで冷戦期からは機動力と武力を併せ持った偵察専用の装輪装甲車が開発されるようになりました。自衛隊の87式偵察警戒車もその流れですね」

    オートバイは時代遅れ?現代の偵察部隊事情

    画像: アメリカ軍が運用する4輪バギー「MRZR4(エムレーザーフォー)」。市販の小型軽量オフロード車両をベースに、軍からの要望で戦場や災害現場でも走破できるよう開発された(写真/菊池雅之)

    アメリカ軍が運用する4輪バギー「MRZR4(エムレーザーフォー)」。市販の小型軽量オフロード車両をベースに、軍からの要望で戦場や災害現場でも走破できるよう開発された(写真/菊池雅之)

     ところでアメリカ軍など、現代の偵察部隊事情はどのような様子なのだろうか。

    「2000年代初頭ぐらいまでアメリカの陸軍では戦車についていける車両ということで、ストライカーという装輪装甲車が偵察任務に使われていたんですが、やはり大きくて目立つ。さらに空軍がオスプレイを導入すると荷室が小さくなって、既存の車両が載らなくなった。そこで最近の偵察車両はどんどん小型化しています。特殊部隊や海兵隊などは、オスプレイに乗るサイズのポラリス社の4輪バギーを採用していますね」

     オートバイを偵察用途で使う国はあまりないのだろうか。

    「1980~90年代には、自衛隊がオートバイを使うことに対してアメリカ軍などは“威力偵察ではオートバイなんて装甲もないし心許ない。時代遅れだ”と否定的でした。ところが2010年代以降ぐらいから、オートバイの機動力が見直され、最近では陸軍の特殊部隊や海兵隊の偵察部隊がバギーとともにオフロードバイクを運用しています。車種は自衛隊と同じカワサキのKLX250が多く、KLR250やBMWのマシンを使っている、という話も聞いたことがありますね。

     オートバイだけだと機動力は抜群ですが、荷物が積めないので、バギーとペアで運用するのがちょうどいいようです。あとはイギリス軍もオートバイを使っていますね」

     最後に、菊池氏が考える偵察任務の将来について聞いてみた。

    「2001年からのアフガニスタン紛争で、UAV(無人飛行機)が高高度から偵察に加えて攻撃まで行うようになりました。一方で、特殊部隊が現地に溶け込むため馬に乗って移動をした例もあります。アメリカでは虫型の小さなドローンや、ハミングバード・ナノという鳥の姿にしか見えないドローンが開発されていますし、今後はUAVの小型化と擬態化が加速するでしょう。

     反面、例えば街中で暮らす人々の中に潜むテロリストを見つけるのに、嗅覚などの五感や人間観察力などのローテクを生かす訓練も行われています。その両方が融合した、新しい偵察の時代が来るかもしれませんね」

    【菊池雅之氏】
    軍事フォトジャーナリスト。1975年東京生まれ。講談社フライデー編集部を経てフリーに。自衛隊だけでなく、アメリカ軍をはじめ、各国の軍隊を取材するため世界を回る

    (MAMOR2021年8月号)

    <取材・文/MAMOR編集部>

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