• 画像: 『トップガン』では戦闘機のほか実際の空母を使った撮影が行われるなど“本物”の臨場感を感じられ、専門家にとっても見応えのある作品だという

    『トップガン』では戦闘機のほか実際の空母を使った撮影が行われるなど“本物”の臨場感を感じられ、専門家にとっても見応えのある作品だという

     その圧倒的なカッコよさに魅了された若者たちが戦闘機パイロットに憧れ、世界中で志願者を激増させた1本の映画がある。アメリカを代表する人気俳優の1人、トム・クルーズの出世作にもなった『トップガン』(1986年・アメリカ)だ。日本での公開から30年以上たった今でも、自衛隊の戦闘機パイロットの中には、この映画を見て入隊を決めた、という自衛官が少なからず存在する。

     そんな映画『トップガン』はアメリカ海軍全面協力のもと、本物のF-14戦闘機を使って行われた。大迫力の航空アクションはどれほどリアリティーがあるのだろうか。専門家である関賢太郎氏に、新作『トップガン マーヴェリック』の見どころも含めて聞いてみた。

    現実とフィクションをうまく織り交ぜたアクションが秀逸

     映画『トップガン』で関氏がリアルだなと感じるのはどんな点なのだろう。

    「1980年代、米ソ冷戦の真っただ中の話なんですね。ストーリーのモデルになったといわれているのが1981年に地中海南部で起きた“シドラ湾事件”。これは空母ニミッツから発艦したアメリカ海軍のF−14がリビア空軍のSu−22と公海上で交戦、ドッグファイトの末に空対空ミサイルで2機を撃墜した事件です。アメリカ軍は世界のさまざまな場所で哨戒飛行任務を行っており、他国の戦闘機と上空で対峙することもあるため、映画の状況は十分リアリティーがあります。
     
     F−14戦闘機についても、そのウィークポイントが忠実に描かれています。グースを失った事故で後方乱気流に巻き込まれてフラットスピン(注)に陥る場面がありますよね。実はF−14のあのトラブルはよく知られていて、1度フラットスピン状態になるとなかなか立て直せない。さらにエンジンがすぐに停止してしまう現象。これも劇中で描かれていますが、この2つは初期のF−14の欠陥ともいえる弱点で、とてもリアルです」

     反面、エンターテインメント作品ならではのフィクションだなと感じるのはどんな場面だろう。

    「いちばんあり得ないと思うのはマーヴェリックの性格ですね。実際のパイロットは真面目な人が多いし、戦う上ではチームワークが大切なんです。だから管制塔をかすめたり、自分勝手な飛び方をしたら間違いなくクビでしょう。また、実際の空中戦では近づいたとしても僚機とは数百メートルは離れています。あんな曲技飛行並みに近づいて飛ぶのは、映画ならではの演出だなと感じますね」

     では関氏が『トップガン』で一番好きなのはどんなシーンなのだろうか。

    「まずは戦闘機がとにかく格好いいですよね。そして映画の中の教官がめちゃくちゃ強い存在として描かれているのが好きなところです。教官の乗るA−4という小さな攻撃機に対し、巨体のF−14に乗る学生が、全く歯が立たない。

     実際、当時の主力機であるF−14に対してA−4は1950年代に生まれた航空機で、電子機器など圧倒的な性能差があるのに学生は勝てない。教官の腕がいかにすごくて、格闘戦において操縦技術がいかに大切かを表したシーンがいい。映画公開後、アメリカでは戦闘機パイロットを目指して軍隊に入る若者が激増したと聞きました。自衛隊にも日本のトップガンと呼ばれる空戦技術教育を行う第306飛行隊や飛行教導群がありますから、それを題材にした映画をぜひ作ってほしいですね」

    (注)フラットスピン:飛行機が失速し、機体を水平に回転させながら急降下する「きりもみ」状態の分類の1つ

    謎の極超音速無人機やF-14の登場も見どころ

    関賢太郎氏

     新作『トップガン マーヴェリック』の見どころや期待する点はどこだろう。

    「前作の舞台はカリフォルニア州サンディエゴ近郊のミラマー海軍航空基地で、おしゃれな雰囲気のラブストーリーにマッチしていました。その後実在のトップガンはネバダ州のファロン海軍航空基地に移転しました。ここは誰も赴任したがらない田舎なんです。そのあたりが新作ではどう描かれるのか注目したいですね。

     もちろん戦闘機の描かれ方も気になります。F−14に比べて今回マーヴェリックが乗るF/A−18E/Fスーパーホーネットは機動性が飛躍的に高く、予告編にあった急激な機首上げ動作など大迫力の航空アクションシーンが期待できます。機体に爆弾を搭載しているシーンがあったので、空中戦だけでなく爆撃任務も描かれるのかな、という興味もある。まだ開発中の極超音速無人機らしき謎の機体やF−14、第2次大戦で活躍したP−51D戦闘機まで出てくるようなので、航空ファンとしては大いに楽しみです」

    【関賢太郎氏】
    航空軍事評論家、写真家として世界の航空事情を独自に取材し、航空専門誌などで活躍中。同時に自身のウェブサイト「MASDF」でその成果を発表している。著書に『戦闘機の秘密』(PHP研究所)ほか多数

    (MAMOR2021年6月号)

    <文/野岸泰之 撮影/近藤誠司>

    航空自衛隊トップガン

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