•  アメリカのバイデン大統領が就任後に初めて対面で会う外国首脳に日本の総理大臣を選んだように、いま、日米の同盟関係は戦後最密ともいわれています。その理由は何でしょう?

    “お笑い界の日米同盟”ことパックンマックンが、マモル読者を代表して、国際政治学者の西恭之先生にリモートでレクチャーしてもらいました。

    画像: パックンマックン

    パックンマックン

    日米同盟がより重要視される理由

    西恭之先生

    パックン:お笑い界の日米同盟「パックンマックン」のパックンです。僕はマックンが困っているときは助けたいけど、日米同盟もそのような関係なんですか?

    西恭之先生(以下「西先生」):同盟はお互いに共通して実現したいこと、防ぎたいことがあって結ぶもので一方が片方を一方的に守る関係ではないのです。現在の日米共通の利害はインド太平洋地域の平和と安定です。日本はインド太平洋地域にアメリカ軍を送るための戦略的根拠地であり、ここを自衛隊が守るということが、日米同盟の核心になります。

    マックン:日米同盟はこれまででもっとも強固な結びつきになっていると言われていますが、それはどうしてですか?

    画像: 日米同盟がより重要視される理由

    西先生:2021年4月に発表された菅義偉総理と、米中関係を「民主主義と専制主義の闘い」ととらえるジョー・バイデン大統領による日米首脳共同声明では、インド太平洋地域と世界の平和と繁栄のために、「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動」を日米共通の懸念事項として挙げました。

     現在の日米同盟は、自由、民主主義、人権、法の支配といった共通の価値観と共通の利害を持つ日米が、中国の行動を制約することで双方の目的を果たすことを強く意識し、その結びつきの強さを内外に示しています。そのために、アメリカにとっては、地理的に最前線に位置する日本の存在が今まで以上に重要になってきたのです。

    Q.日米同盟は世界の情勢にどのような影響が?

    画像: Q.日米同盟は世界の情勢にどのような影響が?

    マックン:中国の国防予算は年々増していますが、中国の軍事力がアメリカを超えているということはないのですか?

    西先生:ひと口に軍事力といっても米中では目的が違うので単純に比較できません。アメリカの軍事力は、例え地球の裏側の地域でも介入し、一国の支配を防ぐためのものです。アメリカがそのような軍事力を備えたのは、第2次世界大戦の初期にドイツがヨーロッパ、日本が東アジアを支配しそうに見えたのがきっかけです。一方中国が日米に向けている軍事力は、そのアメリカの介入、自分たちの近くの日本や台湾にアメリカ軍がやってくるのを防ぐための軍事力です。

     中国が軍事大国化した1つのきっかけは、1996年の台湾海峡危機のときに、派遣されたアメリカの空母2隻を追跡すらできなかったことです。中国の人口と工業力は東シナ海と南シナ海の沿岸に集中していますから、中国側からすると、どうしてもそこからアメリカ軍を排除したくなりますよね。

     しかし、中国にそれができたら東アジアを独占的に支配できるようになり、東アジア以外でもアメリカの軍事的脅威となりえます。日米同盟のおかげで、アメリカは東アジアにそのような覇権国が現れるのを防ぐことができるうえに、日本を拠点に広くインド太平洋地域にまでアメリカ軍を展開できるのですから、日米同盟は少なくとも地球の半分の安定に貢献しているといえるでしょう。

    Q.日本は一方的にアメリカに守られているだけ?

    画像: 在日アメリカ軍司令部。東京都福生市の横田基地にある。敷地内には航空総隊司令部も所在するなど密接な関係にある

    在日アメリカ軍司令部。東京都福生市の横田基地にある。敷地内には航空総隊司令部も所在するなど密接な関係にある

    マックン:よく、「日本はアメリカに一方的に守ってもらっているだけで肩身が狭い」という意見を聞きますが、それは間違った見方なんでしょうか。

    西先生:そもそもアメリカは、日本にアメリカのような軍事力を持ってほしいとは思っていません。アメリカにとって一番大切なのは、日本に地球の半分での戦略的根拠地である日本列島が、日本国の防衛力によって安全かつアメリカ軍が自由に出入りできる状態にあることです。

     現在、アメリカ海軍の艦艇の母港が横須賀と佐世保にあります。このためアメリカ本土からわざわざ太平洋を横断してこなくても、空母打撃群(注)を太平洋西部やインド洋に展開することができます。また横須賀にはほとんどの艦船を修理できる世界最大規模のドックがあるので、修理のためにアメリカ本国に戻る必要が少なく、有事に即応しやすいのです。

     そのため日本にアメリカ軍の空母を1隻展開すると、アメリカ本国で3隻常備するのと同じ効果があると計算されています。また、アメリカの戦略核兵器の過半数は潜水艦から発射する弾道ミサイル(陸上のミサイル発射基地よりも相手に探知されにくく、発射前に相手に攻撃されるおそれが低い)の弾頭として、14隻ある弾道ミサイル原子力潜水艦に搭載されています。

     このうち8隻はワシントン州とハワイの間の太平洋東部をパトロールしていますが、これを攻撃できる他国の攻撃型原子力潜水艦は、太平洋西部では日本の海上自衛隊が監視し、その探知・追跡に役立つデータをアメリカ軍に渡しています。それもあって、アメリカの弾道ミサイル原潜は、アメリカ本国が他国から核攻撃を受けても生き残り、相手が受け入れられない損害を与えることができますし、どの国もアメリカを核攻撃することが割に合わない状態を保障しています。

     ですから日本は自国の防衛と重なる形でアメリカと一緒に核の傘を支えており、アメリカは日本を守らずにはいられないのです。「日本は安保にただ乗りしている」と主張したトランプ大統領(当時)でさえ、日本が攻撃されたらアメリカが戦うことを当然視していました。そのトランプ大統領が任命した、たたき上げの軍人出身であるマティス国防長官(当時)は、「日本とアメリカの関係は役割分担のモデルケースだ」とはっきり言っていました。

    (注)空母打撃群:アメリカ海軍の戦闘部隊の1つ。航空母艦とその艦載機、航空母艦を護衛する複数の護衛艦艇や潜水艦、補給を行う艦艇などによって構成される

    Q.日米同盟の課題と今後の展望は?

    画像: 2021年3月に行われた日米安全保障協議委員会では、同盟強化に向けた連携をより一層深めることで一致した

    2021年3月に行われた日米安全保障協議委員会では、同盟強化に向けた連携をより一層深めることで一致した

    パックン:日本は今後、日米同盟に対してどう取り組めばいいのでしょうか。

    西先生:最初に日米同盟の核心は、日本がアメリカ軍の戦略的根拠地であり、ここを自衛隊が守ることと言いましたが、これを維持することに絞ってお話しします。

     有事に日本へアメリカ軍が出入りできなくなれば根拠地の機能が失われるうえ、来援もできません。ところが最近、世界の軍事技術は日米に不利な面があります。大陸の周辺の海をアメリカ軍が利用できないようにするのに適した長距離精密誘導兵器が発達し、中国軍などが配備しているからです。地上から発射する長距離兵器は、それを相手に攻撃されにくい内陸に配備できる大陸国に有利です。

     その結果、日本へ出入りするアメリカ軍を自衛隊が守る必要が増しています。その目的で集団的自衛権を行使することは、法的には可能になりましたが、実力は相手に引き離されないようにしなければなりません。

     また、もし日本の港や飛行場が攻撃されたら、言うまでもなく、アメリカ軍の来援だけでなく自衛隊による離島など国土の防衛も妨害されます。その場合も離島侵攻を抑止するためには、離島へ攻めてきた艦艇と地上部隊を日本本土から迎撃できるミサイルを、相手の第一撃で壊滅しない方式で配備する必要があります。

     アメリカが他国の飛行場をたたくためのミサイルを日本本土に陸上配備することを要請した場合に認めるかどうかも、今から議論しておくべきでしょう。

     最後に私からお2人にうかがいたいのですが、自衛隊に対してどのような印象をお持ちですか?

    マックン:知り合いの自衛官の方になんで自衛隊に入ったのか聞いたら、自分の国は自分の手で守りたいという答えが返ってきて、すごく頼もしく感じました。

    パックン:僕はコロラド州のコロラドスプリングスの出身ですが、ここはアメリカ軍の街で、家族や知り合いにも軍人がたくさんいます。そのため軍に対する個人的な思い入れが強くて、自衛隊も大好きですね。実力を持っている組織なのに、戦争をしないというプライドも持っていて、守るのが仕事という意識がすごいなと思っています。

    西先生:お2人の同盟関係は強固なんですか?

    マックン:僕たちの場合、ネタ合わせイコール、ケンカみたいなもので。“ツッコミ”でたたくと怒るんですよ。

    パックン:彼はすぐ武力行使するので、僕の抑止力が上がりました(笑)。

    【パックンマックン】
    ボケ担当のパックン(パトリック・ハーラン)とツッコミ担当のマックン(吉田眞)によるお笑いコンビ。パックンがハーバード大学を卒業後に来日し、1997年にマックンと知り合いコンビを結成。日米の文化やモノの見方の違いなどをネタに、NHK『爆笑オンエアバトル』などで注目されるように

    【西 恭之氏】
    アメリカ・スタンフォード大学卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了、国会議員秘書を経てシカゴ大学大学院で政治学の博士号を取得後、現在静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授。国際政治学者。専門はアメリカの国家戦略、軍事作戦思想、日米同盟 写真/本人提供

    (MAMOR2021年9月号)

    <文/古里学 撮影/荒井健(パックンマックン)>

    自衛隊とアメリカ軍の緊密な関係を探れ!

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