• 画像: 2017年の大量傷者受入訓練は、マラソン大会ゴール付近で爆破テロが発生したという想定で行われた。体育館で煙も立ちこめるテロ発生直後の状況を再現

    2017年の大量傷者受入訓練は、マラソン大会ゴール付近で爆破テロが発生したという想定で行われた。体育館で煙も立ちこめるテロ発生直後の状況を再現

     2020年2月、クルーズ船『ダイヤモンド・プリンセス号』で発生した新型コロナウイルス感染症患者をいち早く受け入れた自衛隊中央病院。医療従事者の感染ゼロを継続しながら、今も市中感染の患者を受け入れ続けています。ここは“自衛隊員の病院”でありながら、日ごろは地域住民の診察・診療も行い、ひと度、大規模災害などが起これば、日本医療の“最後の砦”となり、国民を守るのです。

     自衛隊中央病院の「強さ」を支える要素の1つが、日ごろからの厳しい訓練だ。大規模災害への対処訓練を年1回行うほか、感染症対策の訓練も定期的に実施している。

    毎年恒例の大規模訓練、「大量傷者受入訓練」とは?

    画像: 大規模スポーツイベント開催中に、テロが発生した想定で行われた20年の大量傷者受入訓練。現場近くでトリアージや応急処置を済ませた負傷者を、自衛隊の救急車に乗せて搬送する

    大規模スポーツイベント開催中に、テロが発生した想定で行われた20年の大量傷者受入訓練。現場近くでトリアージや応急処置を済ませた負傷者を、自衛隊の救急車に乗せて搬送する

     自衛隊中央病院が、各種災害に備える訓練として毎年実施しているものに「大量傷者受入訓練」がある。この訓練は2007年から行われており、毎回状況を細かく設定した上で、同時多発的に発生した傷病者をどう助けるか、大掛かりな訓練を実施している。

     例えば19年は首都直下地震が発生した想定で実施。訓練参加人員には、訓練の判定などを行う「統裁」人員も含め700人以上が参加した。

    画像: 自衛隊中央病院がある三宿駐屯地内にテロの被害現場を再現し、警察や消防と一体になっての救護訓練を行った

    自衛隊中央病院がある三宿駐屯地内にテロの被害現場を再現し、警察や消防と一体になっての救護訓練を行った

     20年は新型コロナウイルスの影響も考慮し、感染対策の徹底を図って実施。大規模スポーツイベント開催中に都内外複数箇所でCBRNテロが発生した想定での訓練となった。

     この訓練結果を、今後の対処計画に落とし込み、災害対処に備える知見として蓄積されるのである。

    地域の医療機関として各種機関・団体と連携する

    「自衛隊の医療従事者は、即応性を高めなくてはいけません。そのため、訓練を重ねることが重要です」と鈴木副院長は話す

     自衛隊中央病院は東京都の感染症指定医療機関でもあるため、毎年1回「感染症患者受入訓練」を行う。20年11月の訓練では、新型コロナウイルス感染症流行下に新型インフルエンザが流行した想定で行われた。「大量傷者受入訓練」などの大規模訓練は消防や警察、民間医療機関などと協力して実施され、それについて副院長兼企画室長の鈴木智史陸将はこう語る。

    「当院は全自衛隊病院の中枢であると同時に、地域の重要な医療機関です。訓練を地域の医療機関などと共同で行い、平素から関係を深める目的は、いざというときの連携強化です。訓練は医官・看護官の備えにつながり、地域で頼られる病院の強さにつながります」

    単なる健康づくりではなく自衛官としての健康管理を

    画像: 大量傷者受入訓練で、屋上のヘリポートより航空自衛隊の救難ヘリコプターUH-60Jから担架に乗せられた傷病者が運び出される

    大量傷者受入訓練で、屋上のヘリポートより航空自衛隊の救難ヘリコプターUH-60Jから担架に乗せられた傷病者が運び出される

     自衛隊中央病院の大きな任務は、平素からの診察・治療に加えて、有事における負傷者・患者受入態勢を準備しておくことにある。それが先に挙げたような訓練を行う理由だ。

     また、隊員の健康の維持増進を図ることも自衛隊中央病院の重要な役目だ。非常時に自衛隊が傷病者だらけでは困る。副院長の佐藤道哉海将はこう語る。

    「一般の病院であれば『病気にならないよう健康づくりを』というくらいで済みますが、当院の場合は、隊員が任務を達成するためにどういう支援をすべきかがポイント。そこで私たちは、『任務達成のための健康管理』を実施しています。任務に堪えうる健康状態、体力を保つため、個別に指導教育を行い、訓練にも備えています」

    医療安全につなげるために横断的組織を作り対応する

    佐藤副院長は「大きな組織は横の連携が難しい。病院長を補佐する立場として、組織の潤滑油になるよう心掛けています」と話す

     佐藤副院長は、自衛隊中央病院の取り組みとして医療事故を予防するコミュニケーションにも力を入れている。

    「大規模な訓練を行うと医療事故の可能性に気付くこともあります。その対策としては、第1に発生しないようにする、第2に発生したときの対処、そして定期的に医療安全の活動を行うことの3点が重要です」

    画像: 訓練では病院の待合室を使い、負傷者に応急処置を施す。負傷者役の服を破いたり、メイクでけがをリアルに再現

    訓練では病院の待合室を使い、負傷者に応急処置を施す。負傷者役の服を破いたり、メイクでけがをリアルに再現

    画像: 中等症患者受入エリアで、傷病者の処置を実施する。同時に搬送されてくる多くの傷病者はそれぞれ症状が異なり、適切な処置を速やかに行えるよう訓練する

    中等症患者受入エリアで、傷病者の処置を実施する。同時に搬送されてくる多くの傷病者はそれぞれ症状が異なり、適切な処置を速やかに行えるよう訓練する

     同院では「医療安全評価官」という、組織横断的に病院内の安全管理を担当する部門を設置。どうしても縦割りで動きがちな大組織において横断的にチェックを行い、風通しを良くし、部門間の横のつながりを強くすることで、医療安全につなげていこうとしている。

    「医療器具の取り扱いや、患者とのコミュニケーションなどをそれぞれで考え、意見を交換。災害時でも安全に機能する医療体制を実現できるように活動しています」と佐藤副院長は話す。

    戦う医療や救急を学ぶ、陸上自衛隊衛生学校

    画像: 野外での救命訓練の様子。満足な設備もない第一線での救護活動で、衛生科隊員が応急処置などを行う

    野外での救命訓練の様子。満足な設備もない第一線での救護活動で、衛生科隊員が応急処置などを行う

     自衛隊中央病院がある三宿駐屯地には、陸上自衛隊衛生学校がある。こちらは陸上自衛隊の衛生科隊員などを養成するための教育機関だ。自衛隊中央病院とも関係が深いこの学校では、何を教えているのだろうか? 陸自衛生学校について紹介しよう。

    現場で、隊員の命を守る衛生科の隊員を養成する

     陸上自衛隊衛生学校は、1952年に設立された教育機関。衛生科隊員として必要な知識、技能を修得させるための教育訓練を実施し、衛生科部隊の運用などについての調査・研究を行う機関だ。合わせて国家資格である臨床検査技師や救急救命士の養成も担う。

     座学、実習を通じた各種教育をはじめ、救護員を養成するための訓練、例えば戦闘における救急・救命訓練や、衛生科部隊の運用に関する訓練、医官・看護官への訓練なども実施する。その教育内容から、救急・救命訓練が必要な他職種の陸自隊員や海上自衛官、航空自衛官、医師免許保有者などに対する教育も行っている。

     衛生学校を修了した隊員は、現場部隊で隊員の健康管理などを担当するほか、災害派遣などでの救急行為、有事には負傷者の手当てを行う。自衛隊中央病院とは、同じ敷地に所在することもあって平素から交流があり、同学校で教鞭を執る医官がいたり、互いの訓練に協力し合ったりしている。

    (MAMOR2021年2月号)

    <文/臼井総理 写真/村上淳>

    国民の自衛隊中央病院

    This article is a sponsored article by
    ''.