•  自衛隊には偵察用オートバイのほかに、別の任務を担うオートバイがあるのをご存じだろうか。「自衛隊の白バイ」と呼ばれる警務用オートバイがそれだ。ここでは実際に乗っている第302保安警務中隊の若林裕昭2等陸曹に、任務や訓練、装備などについて聞いた。

    警務用オートのスペックを紹介!

    画像: 警務用オートのスペックを紹介!

    オートバイ(警務用)

     ヤマハのMT-03(322cc)をベースに、白バイとしての装備をプラスした自衛隊向けの専用車両。警察用のように一般道でスピード違反の取り締まりを行うことがないため、カウリングを装備しないネイキッドタイプであり、外観はかなりスマートだ。

    画像: 現代的なデザインの赤色灯とサイレン。スピーカーも装備している

    現代的なデザインの赤色灯とサイレン。スピーカーも装備している

    画像: メーターまわりは市販車と同じもので、スピードはデジタルで表示される

    メーターまわりは市販車と同じもので、スピードはデジタルで表示される

    画像: 赤色灯やサイレンなどを操作する白バイ仕様のスイッチ

    赤色灯やサイレンなどを操作する白バイ仕様のスイッチ

    サイドボックスにはサブバッテリーを搭載。赤色灯はステーが伸びる

     スピード性能を重視していないため、歴代の車両は排気量が400ccまでの普通2輪車のものを使用している。赤色灯とサイレンアンプ、スピーカーを装備している。

    <SPEC>
    全長:約2m 全幅:約0.8m 全高:約1.4m 重量:約194㎏ 最高速度:約160㎞/h 乗員:1人 エンジン形式:4ストローク水冷DOHC並列2気筒 排気量:322cc 最高出力:42PS
    最大トルク:3.0kgf・m 駆動方式:チェーン 変速機形式:リターン式6段

    発足当初はハーレーダビットソンの警務用オートも

    画像: ヘルメットやグローブ、ブーツは警察の白バイと同様のものを使用する。新型のMT-03で前を走る隊員は、一般隊員と同じ迷彩戦闘服に反射ベストという春~夏仕様の服装。XJRで後ろを走る隊員の服装は、冬仕様の合成皮革の黒い防寒乗車服だ

    ヘルメットやグローブ、ブーツは警察の白バイと同様のものを使用する。新型のMT-03で前を走る隊員は、一般隊員と同じ迷彩戦闘服に反射ベストという春~夏仕様の服装。XJRで後ろを走る隊員の服装は、冬仕様の合成皮革の黒い防寒乗車服だ

     陸上自衛隊には、隊内での警護や道路交通統制、犯罪の予防などを行う警務隊という部隊がある。いわば“自衛隊の警察”で、ここでもオートバイが運用されている。警務隊におけるオートバイ運用の歴史は、警務隊が発足した1952年から始まっているのだという。

    「当初はアメリカ製のハーレーダビッドソンや国産のさまざまなメーカーのものを使っていたと聞きます。近年は普通2輪免許で乗れる400ccクラスのマシンが採用され、現在はヤマハのXJR400と、2019年から導入されたヤマハのMT−03を使用しています。白バイは全国の警務隊に合計53台あります」

    先導、防犯、交通統制など任務は多岐にわたる

    16歳からバイクに乗り、警務隊白バイ歴は10年以上の若林2曹。「決して無理せず常に安全第一で乗り、任務に当たっています」

     警察の白バイと違い、スピード違反の車を追いかけたりすることはないので、400ccクラスのマシンで十分なのだという。警務隊は自衛隊内の規律を守る存在だが、そこでの白バイの任務にはどんなものがあるのだろうか。

    「自衛隊の高官や海外のVIPの乗った車両の駐屯地内での誘導や警護、先導などを行います。また、大規模なイベントや演習などで多くの自衛隊車両が行き交う場合に、車両がスムーズに通行できるよう、信号のない交差点などで交通誘導や統制を行うこともあります。

     このほかにも駐屯地内での犯罪を予防するための防犯活動でパトロールを行ったり、駐屯地内において交差点での一時停止やスピード違反のチェックなど、交通指導取り締まりも行います。

     駐屯地内で事件や事故が起こった際には、現場に急行することもあります。災害派遣においては、警務隊の先発隊としていち早く現場に入り、道路状況などを確認して、後続の警務隊およびそのほかの部隊がスムーズに現地に入れるよう、情報を伝える役割も担っています」

    警務隊がオートバイをつかう意義とは

    画像: 式典などの際には、高官が乗る車両の先をオートバイで走り、誘導する 写真提供/防衛省

    式典などの際には、高官が乗る車両の先をオートバイで走り、誘導する 写真提供/防衛省

     警務隊の任務において、オートバイを使う意義はどこにあるのだろうか。

    「機動性と、目立つこと、でしょうか。災害派遣でも高い機動性が役立ちますし、高官車両の誘導時にも機動性を発揮して効果的な誘導を行えます。交通指導取り締まりでは、交差点に白バイを止めておくだけでよく目立ち、皆きちんと一時停止するなど、抑止効果が高まるんですよ」

     警務隊のオートバイ要員は、普段どのような訓練を行っているのだろうか。

    「方面警務隊の集合訓練では8の字やスラロームなど、パイロンで仕切られたテクニカルなコースを走る“傾斜走行”や、狭い場所でのUターンやスラロームなどを行う“バランス走行”などを訓練して、高い操縦技術を身に付けています。

     また東部方面警務隊においてはオートバイ操縦指導員検定というカリキュラムを実施し、基準に合格した者が指導員となって各部隊で教育訓練を行い、高い操縦技術を持った乗り手を多く育てられるよう環境を整備しています」

    目立つ車体で抑止力に。高い順法精神が求められる

    画像: 駐屯地内で交通指導取り締まりを行う警務オート隊員。一時停止や速度超過などのチェックを行う 写真提供/防衛省

    駐屯地内で交通指導取り締まりを行う警務オート隊員。一時停止や速度超過などのチェックを行う 写真提供/防衛省

     では、警務隊白バイに乗る隊員に求められる資質や、乗員として心掛けているのはどのような点なのだろうか。
    「警務官ですから、単純にバイクをうまく乗りこなせるだけでなく、模範的な走行ができる高い順法精神を併せ持つことが求められます。

     部隊の中だけでなく一般道でもとにかく目立つので、自分に与えられた任務をきちんと理解し、自身の姿勢や態度、運転がどのように見られているのか、客観的な視点に立ち、自らを律するように心掛けています」

     自衛隊に白バイがあることを知らない人も多く、信号待ちで話し掛けられたり警察官に敬礼されたりするのはよくあることだとか。以前は偽白バイだと疑われて警察官に止められ、身分を照会されてやっと疑いが晴れた、なんて笑えないエピソードもあるという。

     偵察オートに比べて導入台数が少なく、存在自体がレアな警務用オートバイだが、陸自の規律維持には欠かせない存在となっている。

    (MAMOR2021年8月号)

    <文/野岸泰之 撮影/楠堂亜希>

    自衛隊ライダー、参上!

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