• 画像: 雷雲を回避して飛行できる! 新・飛行点検機「U-680A」のココがすごい

     長年使用されていたYS-11FCのラストフライトに先立つこと3カ月、2020年12月に同機の後継機が飛行点検隊の任務に就いた。それが新・飛行点検機「U-680A」だ。

     最新のテクノロジーを装備した高性能の機体で、自衛隊機の安全を守る施設の点検業務の効率アップが期待されている。U-680Aを中心に、飛行点検隊の任務を紹介しよう。

    新・飛行点検機「U-680A」のスペック

    U-680A

     YS-11FCの後継機として、2019年度に導入された最新の飛行点検機。従来の点検機よりも航続距離が長く、短距離での離着陸ができる。

    <SPEC>
    全幅:約22m/全長:約19m/全高:約6.4m/航続距離:約5000km/最大速度:約980km/h/乗員:8人/最大巡航高度:約13720m

    YS-11FCの後継機としてU-680Aを選定

     新たに導入されたU-680A。YS-11FCの後継機として選ばれたのはなぜか? その経緯を解説しよう。

     YS−11FCが航空自衛隊に導入されたのは1965年。2010年代に入ると、運用から同機体の老朽化が問題視されるようになり、後継機の選定について議論されはじめた。

     点検機に求められる条件は、全国を飛び回る点検機として、安全な飛行を可能とする一定の航続性能があること。また、地物に異常接近した場合の警報システムなどの安全対策が講じられていること。そして、1372メートルという南鳥島航空基地の短い滑走路でも離着陸が可能であることだ。

     さらに、そうした機能や性能面を満たした上で、機体購入費や維持・運用費なども選定の基準となる。

     これらを踏まえ、ボンバルディア社(カナダ)製のチャレンジャー650とダッソー・アビエーション社(フランス)製のファルコン2000S、テキストロン・アビエーション社(アメリカ)製のサイテーション680Aが後継機の候補となり、2016年12月、総合的な評価が高かったサイテーション680Aが選定された。同機体を改造したU−680Aは、20年3月に2機、21年の1月に1機、入間基地に到着した。

    雷雲を回避して飛行できるので、悪天候による延期が少なくなった

    画像: 乱層雲を回避できるため、過密なスケジュールのもと全国各地を飛び回ることが可能に

    乱層雲を回避できるため、過密なスケジュールのもと全国各地を飛び回ることが可能に

     では、最新鋭のU-680Aはこれまでの飛行点検機とどう変わったのか? その性能や特徴を余すことなく紹介しよう。

     飛行点検隊の任務においてネックとなるのが、天候によってフライトが延期になること。一般に雨雲や雷雲と呼ばれる乱層雲は約2000〜7000メートルの高度に現れる。

     YS−11FCが飛行できる高度は約3000メートルなので、飛行ルート上に乱層雲があればフライトを延期せざるを得なかった。だが、U−680Aは約1万メートル上空を飛行できる。よほどの悪天候でないかぎり、乱層雲を回避して飛行することで任務が果たせるようになったのだ。

    短時間で遠方まで行けるので、点検業務の効率が上がった

    画像: 南鳥島には、飛行場、気象観測施設、自衛隊と気象庁の合同宿舎などがある

    南鳥島には、飛行場、気象観測施設、自衛隊と気象庁の合同宿舎などがある

     U−680AはYS−11FCに比べて巡航速度も飛躍的にアップ。YS−11FCでは南鳥島への点検業務に往復2泊3日かかっていたが、U−680Aでは1泊2日に短縮することができる。遠隔地への効率的な移動が可能になり、点検効率も向上している。

    機内の環境が改善され、任務中のストレスが低減

    座席の座り心地が快適になるなど、コックピット周りの居住性も格段に進化。パイロットいわく「かなり快適に操縦できます」とのこと

     飛行点検の任務は長時間に及ぶこともあり、クルーはその間、機内に拘束される。これまでの機体の機内環境は、必ずしも良好なものではなかった。

     例えば、YS−11FCはエンジンが暖まるまでエアコンが効きにくく、夏は汗が噴き出すほど暑く、冬は凍えるほど寒いという難点があった。また、「ダートサウンド」特有の騒音があり、クルー同士が肉声で会話をするのはとても大変だったという。

     しかし、U−680Aでは、従来の航空機よりも静粛性に優れ、機内温度の管理が容易になるなど、最新の設備により機内環境が改善している。また、点検任務に必要な器材やフライトに必要な器材など、搭載機器がコンパクトになったことで、機内空間に余裕が生まれた。任務遂行の際のストレスが低減され、これまでよりも使いやすい機体になっているのだ。

    自動操縦機能が向上し、飛行ルートの約5割が自動飛行可能に

    画像: 自動操縦機能が向上したことで、パイロットが操縦かんを操作する時間が大幅に減った

    自動操縦機能が向上したことで、パイロットが操縦かんを操作する時間が大幅に減った

     YS−11FCの操舵系統は、油圧を使用していないためかなりの腕力が必要だ。フライト後はパイロットの腕が筋肉痛になるほどだったという。それに対してU−680Aには、最新の自動操縦装置などが搭載されている。フライトの全行程の半分以上が自動操縦になったことで、パイロットのワークロード(作業負担)の軽減につながっている。

    必要に応じて切り替えられるMFDで計器が見やすくなった

    画像: MFDの搭載により、飛行に必要なあらゆるデータが1つのディスプレーで視認可能になった

    MFDの搭載により、飛行に必要なあらゆるデータが1つのディスプレーで視認可能になった

     U−680AのコックピットにはMFD(マルチ・ファンクション・ディスプレー)が搭載され、自動車のナビゲーションシステムのように、航空機の操縦に必要とされるデータをタッチパネルで切り替えて表示できる。飛行ルートや移動マップ、進入禁止エリアなどの情報が1つの画面で確認できるため、操縦の作業効率も向上している。

    (MAMOR2021年7月号)

    <写真/荒井健 文/魚本拓>

    新・飛行点検機デビュー!

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